グラスの中、琥珀(こはく)色の液体が、ほのかな照明を受けて揺れている。10月末のある夜、東京・赤坂の老舗バーでは、常連のウイスキーファンが「マッサン」談議に花を咲かせていた。
「エリーはかわいいね。あの日本語のたどたどしさがまたいい」「グラスゴーでのウイスキー作りの修業を、もう少し見たかったよなあ」
このバー「Virgo」のマスター、倉持修さんは言う。
「最近はお客さんたちと『マッサン』の話でよく盛り上がります。史実に照らすと突っ込みどころもあるけど、尊敬する国産ウイスキーの始祖たちの話なので、つい見てしまうんです」
NHK連続テレビ小説「マッサン」は、ウイスキー作りに奮闘するマッサンこと亀山政春と、彼を健気に支えるスコットランド人の妻エリーの物語。モデルはニッカウヰスキーの創業者・竹鶴政孝と、その妻リタだ。サントリー創業者の鳥井信治郎がモデルの実業家、鴨居欣次郎もキーパーソンとして登場する。
「マッサン」にはまっているのは、ウイスキーファンだけではない。9月29日の放送開始以来、第1週の平均視聴率(関東地区)は21.3%、2週と3週が20.6%、4週も連日20%を超え、視聴者から大好評を博している。
その影響か、国産ウイスキー市場が活況を呈している。酒販売大手のカクヤスでは、国産ウイスキーの売り上げは10月27日時点で、すでに前年同月比117%。特にニッカの創業者の名を冠した「竹鶴」ブランドは、同320%を記録した。
「予想以上の伸びです。年末に向け、さらなる売り上げ増を期待しています」(漆崎裕之・店舗商品課長)
※AERA 2014年11月10日号より抜粋