身の回りにあふれる、乳酸菌入りの製品たち。これほど乳酸菌がもてはやされるのはなぜなのか。

 2012年冬、乳酸菌マーケットに衝撃が走った。1月末から2月にかけて、「明治ヨーグルトR―1」がスーパーやコンビニの棚から一斉に消えたのだ。1人1点の制限も焼け石に水。明治には問い合わせが殺到した。

「明治ヨーグルトR―1」は、「1073R―1乳酸菌」を使ったヨーグルト。発売されたのは09年12月だが、11年夏に医師が、この乳酸菌が免疫細胞であるNK細胞を活性化させることを発表。12年1月23日にはNHKの朝の情報番組「あさイチ」が、4日後にはフジテレビの「とくダネ!」が、10年から11年にかけて山形県舟形町と佐賀県有田町で約3千人の園児と小中学生を対象に行われた大規模調査を報じた。1073R―1乳酸菌を使ったヨーグルトを1年間継続的に摂取することでインフルエンザ罹患率が著しく低下するという驚くべき結果だった。

 これに他のワイドショーや紙媒体が続き、「R―1」ブームに火がついたのである。

「R―1ショック」で覚醒した乳酸菌メーカーが繰り出す商品の広がりは、とどまるところを知らない。乳製品は当然のこととして、いまや健康食品には必ずと言っていいほど乳酸菌が添加されている。

21世紀に入ってから一気に競争が激化したのには、実は理由がある。研究が進み、乳酸菌にはそれまで喧伝されていた整腸作用以上の効果があるとわかってきたのだ。

雪印メグミルクミルクサイエンス研究所主幹の川崎功博さんによれば、「腸は人間の身体の中で最大の免疫器官」ということで、90年代には免疫という観点での乳酸菌研究が始まった。

 ところが、

「21世紀に入ってからは、『脳腸相関』という言葉が出てきて、腸の健康が脳や全身にも影響を与えていることがわかってきた。乳酸菌の研究が、免疫系、神経系、内分泌系へと機能の広がりをみせるのはこれから。非常に大きな市場につながる可能性があるんです」(川崎さん)

 ヤクルト本社開発部主事の木部裕行さんは、超高齢社会になって健康を気にする人が増えたこと、一方でノロウイルスなどが知られるようになり、食の安心・安全を求める人が増えたことも背景にあると言う。

「乳酸菌製品は何といってもおいしいし、栄養素や身体の調整機能もある。市場が伸び、活性化する条件はそろっている」(木部さん)

AERA  2014年10月27日号より抜粋