週末で登山者が多く、朝から登り始めた人たちが頂上付近に近づくタイミングで噴火が発生した(噴火時間は午前11時52分ごろ) (撮影/朝日新聞社・池永牧子) (c)朝日新聞社 @@写禁
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週末で登山者が多く、朝から登り始めた人たちが頂上付近に近づくタイミングで噴火が発生した(噴火時間は午前11時52分ごろ) (撮影/朝日新聞社・池永牧子) (c)朝日新聞社 @@写禁

 9月27日、御嶽山(おんたけさん)の噴火に多くの登山者が巻き込まれた。そのひとりに当時の話を聞くことができた。

 澄み切った青空が、無数の黒点で覆われた。

「ドカンという大きな音がして振り返ると、煙とともに、視界いっぱいに噴石が飛んでいたんです。高さ200メートルは舞い上がっていた。それでも『石だ』と認識できたので、相当な大きさだったはずです」

 そう話すのは、長野県飯島町の山岳ガイド、小川さゆりさん(43)だ。9月27日はツアーの下見で御嶽山(長野・岐阜県境)を訪れていた。噴火の時、火口から400メートルほど離れた頂上付近にいた。

「苦しい。このままでは死ぬ」

 最初に小川さんを襲ったのは、有毒な火山ガス。噴火直後に「濃いやつ」を吸い込んだ。噴石が降る中、その場でのたうち回った。上着の首元を口まで引き上げ、努めてガスを吸わないようにしたが、息がしたくて、どうしても吸ってしまう。

 3分ほど、もがき続けた。すると不意に、「冷たい、おいしい空気」が入ってきた。生き返った。辺りを見回し、目についた近くの岩陰に体を押し込めた。「頭だけでも守れれば」。両腕からねじ込んで、背中までは隠れた。身長153センチと小柄な小川さん。それでも右足と腰の辺りをさらす形になり、地面で砕けた噴石が大粒の雨のような感触で小川さんをたたいた。

 やがて周囲は、噴煙で夜のように暗くなった。暗闇に包まれた状態は、1時間ほど続いた。一方、その間も「十数秒くらい、30メートルほどの視界が開ける瞬間があった」。その間隙を突いて、岩陰から岩陰へと逃げた。

 午後1時15分。山小屋にたどり着いた時間は、鮮明に覚えている。

「私の場合、身を隠す場所があって助かった。亡くなった人や心肺停止の人たちが数多く見つかっている登山道は、砂地で避難できる岩などがない。ただ、すぐ近くに山荘があるのですが、そこにも駆け込めなかったということは、噴煙で周囲が真っ暗になった影響もあったのではないでしょうか」(小川さん)

AERA 2014年10月13日号より抜粋