エントリー数も多いか少ないかの二極化が進む。「知名度不足のBtoB企業などが、苦しい戦いを強いられています」(一橋大学・西山昭彦特任教授) (c)朝日新聞社 @@写禁
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エントリー数も多いか少ないかの二極化が進む。「知名度不足のBtoB企業などが、苦しい戦いを強いられています」(一橋大学・西山昭彦特任教授) (c)朝日新聞社 @@写禁

 採用現場で異変が起きている。終息を迎えつつある2015年4月入社の新卒採用の話だ。都内の中堅ITベンチャーの採用担当者によれば、

「例年、選考を受けに来る学生にはベンチャー志向の人が多いのですが、今年は大手と併願している学生がとても多かった」

 ベンチャー企業ではまだ15年入社の採用が続いているが、15年4月は諦めて、もう16年入社の学生に照準を合わせ始めた企業も多いという。

「大手が採用枠を広げたために、ベンチャーまで人材が回ってこない。弊社はなんとか最低限の数を確保しましたが、あちこちで『厳しい』という声を聞きます」(前出の採用担当者)

 では、大手なら楽に採用できているのかというと、そうでもない。ある大手金融機関の広報担当者は言う。

「受けに来る人は多いのですが、選考過程や内定段階での辞退者が増えた。来年も採用を拡大する企業が増えそうなので、急いで対処しなくては」
 
 08年のリーマン・ショックからいわゆる「就職氷河期」が続いたが、今年、状況は一変した。就職情報会社マイナビが今年2~3月に実施し、1808社から回答を得た「2015年卒 企業新卒採用予定調査」によると、企業の採用予定数は前年比で約15%、上場企業では約12%増えている。採用環境が「厳しくなる」、つまり、採用難になると答えた企業は、文系学生については半数を、理系学生では6割を超えた。

「15年卒は学生にとって有利な、売り手市場の年だったといえるでしょう」(マイナビHRリサーチセンター長の栗田卓也氏)

 長く続いた買い手市場がなぜ急に、売り手市場に転じたのか。一橋大学キャリア支援室の西山昭彦特任教授は説明する。

「不景気のときに採用を絞りすぎたことに加え、昨今の好況で人手が必要になっている。社内で人手不足が限界に達している企業が多いのです」

 その一方で、企業の「ターゲット採用」はいまだ健在だ。人事に詳しいHRプロの寺澤康介社長は言う。

「企業が採用基準を緩めるといっても、多くは採用ターゲットの学校群の中での話で、ターゲット自体を広げるというケースはあまりありません。それに、例年のことではありますが、どこの企業も『ほしい学生』は似たりよったりです」

 採用数の増加は、ターゲット層の学生の取り合いを激化させ、例年以上に一部の学生に内定が集中。それ以外の学生は一つも内定できない、という状況は変わっていないのだ。

AERA 2014年9月22日号より抜粋