顕著だったのは、男性の反応だ。みな、急に優しくなった。男性陣に聞くと、太っている女性には威圧感があるらしい。小売店に入ると、店員も気軽に声をかけてくれるようになった。

「以前は、まず『この人は敵なのか、味方なのか』というフィルターで見られていた気がする。でも今は、それが外れ、最初から味方として受け入れられている気がするんです」

 人間が伝達する情報の中で、話す言葉が占める割合は7%に過ぎないという。残り93%は、見た目などの「非言語」。埼玉県在住の会社員、小林一行さん(48)の場合、ダイエットによる見た目の変化が、上司や部下との関係まで変えた。

 うつ病をきっかけに太り始め、人生をあきらめかけていたある日。ぽっこりと突き出た腹を見て、100キロ超の巨漢上司が言った。

「はっはっはー。お前も俺と同じだな」

 あなたと一緒にされたくない──。ダイエットのスイッチが入った。

 もともと人とコミュニケーションを取るのが苦手。コンピューターエンジニアとして機械を相手に働いていたが、転職した会社で管理職になり、部下や取引先との対人関係に悩んだ。上司からは「会社のがん」と言われ、うつ病になった。

 睡眠導入剤を飲めば3時間は眠れるが、夜中に目が覚めると過食に走ってしまう。ファミリーパックのチョコレート300グラム、約1600キロカロリーを30分ほどで「完食」。気がついたときには体重が20キロも増えていた。

 うつに加え、体形も変わりはて、人前に出るのが嫌になった。部下に対しても「太ったオヤジの言うことなんてどうせ聞いてもらえない」と卑屈になった。遺書を書いて自殺しようとしたことも。家族に止められ、どん底から抜け出そうとさまざまな本を読む中で、本田健さんの著書『「ライフワーク」で豊かに生きる』と出合った。

 自分の好きだったことを思い出し、趣味のラジコン飛行機を再開した。夢中になって作っていると、甘いものを食べたい衝動にかられなくなった。

●バカにされなくなった

 その頃に聞いたのが、冒頭の上司の発言だ。好きなことをダイエットに取り入れ、ランチタイムには電車で3駅移動して、秋葉原でウィンドーショッピング。機械や部品を見ていると空腹を感じず、歩きながら干し芋や大豆バーをかじるだけで満足できた。半年で14キロ、2年間で25キロの減量に成功した。

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