普段何気なくしている買い物。しかし「行動経済学」を研究する友野典男・明治大学教授によると、人の購買行動の裏には、ある理論があるのだという。

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 こんな一件がありました。昨季のプロ野球楽天イーグルスが日本一になり、楽天はネット上の「楽天市場」で優勝セールを展開した。ところが、星野仙一監督の背番号にちなんで「77%割引」を演出したいがために、一部の店で通常価格を不当に引き上げていた。「通常価格1万2千円の『シュークリーム10個入り』を、77%割引の2600円で販売」という具合です。

 消費者は商品を購入する際、手がかりとなる通常価格と比べて安いのだから、「お得」と判断します。“被害”に遭った購入者は、そもそも通常価格が妥当なのか疑いもせず、飛びついてしまったのです。行動経済学では、これを「アンカリング効果」と呼んでいます。

 人間はある事柄について予測をするとき、初めにある値(アンカー、錨(いかり))を設定し、参考にする。しかし、最初の値がバイアスになり、予測が引きずられてしまうことがある。楽天市場の不当表示の場合、通常価格や割引率がバイアスになり、販売価格が妥当なのか、正確に判断できなかったと考えられるのです。

 どうしてこのような判断をしてしまうのか。行動経済学では、こう説明します。

 人間には二つの情報処理プロセスがあり、直感的、感情的な部分を「システム1」と、分析的な部分を「システム2」と呼ぶことにします。通常の情報処理や判断は、身近な手がかりを基にシステム1が直感的に素早く判断し、その後でシステム2が調整する。このシステム2による調整が不十分なまま最終判断されてしまうのが、アンカリング効果というわけです。

AERA 2014年5月19日号より抜粋