「通貨は国家のもの」という常識への挑戦。中国・ロシアは禁止し、英国・米国は法秩序に組み込む。「通貨ではない」と逃げる日本はどうなるのか(写真:gettyimages)
「通貨は国家のもの」という常識への挑戦。中国・ロシアは禁止し、英国・米国は法秩序に組み込む。「通貨ではない」と逃げる日本はどうなるのか(写真:gettyimages)

 ネット上で流通していたビットコイン。この通貨の「正体」は何なのか、生まれた背景などを探った。

 ビットコインは「クリプト・カレンシー(暗号通貨)」と呼ばれる通貨のひとつだ。その正体は暗号のカギがかかった「数字の塊」。インターネット空間に存在する電子記号である。

 ビットコインは2009年、リーマン・ショックにあえぐ米国に登場した。登場の背景には急速に広がるeコマース(電子商取引)があった。代金の徴収や送金に銀行を使うと手数料が高い。クレジットカードは詐欺など不正のリスクが怖い。カード番号を知らせると不正使用が頻繁に起こる。銀行やカード会社を通さず、おカネを転送する簡素で確実な方法はないか。サイバー空間で先端を走る人々の切実な事情が暗号通貨を生んだ。

 今の時代、紙幣は半分終わっている。月給を現金でもらう人はごく少数、銀行振り込みになった。預金は金庫に現金で積まれてはいない。銀行口座は電子情報で管理される。日本に流通するマネーは総額約1500兆円、そのうち日銀券は80兆円。マネーの95%は電子情報になった。

 通貨の機能は(1)価値の尺度(値段の表示)(2)決済機能(売買・送金)(3)貯蓄性(預金・利殖)とされる。金貨やお札が担ってきた役割は、今では通信回線がやっている。通貨はモノから金融サービスへと変わった。円もビットコインも電子情報なのだ。ただ日銀も銀行もインターネットは使わない。安全が確保できないと考え、専用線だ。厳重なシステムを組むのでコストがかかり手数料を押し上げる。

 暗号で武装するビットコインは危なっかしいインターネットでも平気である。おかげで手数料は限りなくゼロに近い。

 おカネをやり取りする銀行には膨大な事務作業がある。ビットコインも取引の照合や確認が欠かせない。この作業を担うのはコインの利用者たち。特殊なソフトや専用のコンピューターを使って数理計算をする。労働の対価としてコインが手に入る。金鉱を掘るのに似た地味な仕事で「採掘」と呼ばれている。ビットコインは労働の塊なのだ。金貨と同じように通貨そのものに価値が内包されている。

 だがその正体は先に述べたように数字の塊。皆で一緒に汗をかくネットワークがあってこそ通貨として成立するのだ。

AERA 2014年3月24日号より抜粋