県から情報開示された男子中学生の甲状腺結果。のう胞は「あり」で、「最大の大きさ」の欄には乱雑に「3.1mm」と書かれている(撮影/写真部・植田真紗美)
県から情報開示された男子中学生の甲状腺結果。のう胞は「あり」で、「最大の大きさ」の欄には乱雑に「3.1mm」と書かれている(撮影/写真部・植田真紗美)

 東京電力福島第一原発の事故で、子どもたちは甲状腺がんの発症リスクを負った。県の検査に不信感を抱く親子は追加検査に走るが、受け入れる病院は少ない。

 福島県は2011年10月、子どもたちの甲状腺検査を始めた。原発事故による健康被害を調べるためだ。対象年齢は東日本大震災が起きた11年3月11日時点で、0~18歳の県民。

 県は甲状腺検査を福島県立医科大学に委託している。ただ、親たちの県や県立医大に対する不信感は大きく、民間による独自検査の増加につながっている。その不信感の根っこをつくったのは、5月まで県民健康管理調査検討委員会の座長を務めていた県立医大の山下俊一副学長(非常勤)だ。

 山下氏が福島第一原発事故の直後、講演会などで話した「放射線の影響は、実はニコニコ笑ってる人には来ません」といった発言に、県民は疑問を抱く。昨年1月には、日本甲状腺学会の会員医師たちに「保護者から相談があっても(甲状腺の)追加検査は必要ないと説明してほしい」と要請する文書を送っていたことが明らかになり、決定的な溝となった。

 実際、県民が追加検査を望んでも、受け付けない病院がほとんど。甲状腺検査ができる郡山市近辺の10以上の病院へ問い合わせたが、受け付けると答えた病院はなかった。

「原発絡みとなると県の事業なので、こちらではやっていない」(太田西ノ内病院)
「県民健康センターから委託されているので、そちらの紹介があれば検査を受けられるが、それ以外の人は受け付けていない」(星総合病院)

 放射線被曝の診療を目的に、昨年12月に設立されたふくしま共同診療所(福島市)の松江寛人院長は言う。

「甲状腺検査を受けられる病院は、この近辺だと3カ所ぐらいしかない。県内の開業医は県立医大出身者が多い。山下氏の文書で医師会に圧力がかかったとしても不思議ではありません」

 共同診療所を訪れる9割は、甲状腺検査の希望者だ。開業以来およそ500人が検査を受けたが、松江氏は、

「追加検査を受けたい人がたくさんいるのに、そもそも県立医大だけが検査を行うことに疑問を感じている」

 ジャーナリスト・桐島瞬

AERA 2013年11月18日号より抜粋