測る会の測定で最高値を出した「夢の島競技場」(江東区)。この競技場周辺の植え込みやアスファルト、芝生の上など7カ所を測定。1カ所で毎時0.484マイクロシーベルトを記録した(撮影/編集部・野村昌二)
測る会の測定で最高値を出した「夢の島競技場」(江東区)。この競技場周辺の植え込みやアスファルト、芝生の上など7カ所を測定。1カ所で毎時0.484マイクロシーベルトを記録した(撮影/編集部・野村昌二)

 見過ごすことのできない数値が計測された。2020年の東京五輪の会場候補となっている施設や競技場で、比較的高い放射線量が記録された。「オリンピック候補会場の放射線を測る会」(以下、測る会)が測定した。

 東京五輪で予定されている競技会場は37カ所。測る会はそのうち東京、神奈川、埼玉の全候補地を計測した。北海道と宮城の計2会場は東京から遠いため除き、東京湾臨海部の「海の森マウンテンバイクコース」は「工事中」で測定していない。

 空間線量が最も高かったのは、東京湾臨海部にある「夢の島競技場」(江東区)。夢の島公園の中にあり、そばの運河にはヨットが浮かぶ。五輪ではこの競技場と隣接する12面の野球場をつぶし、馬場馬術および障害馬術の会場にする予定だ。最高値は、その競技場南側の入退場口脇の植え込み、地表から5センチで、毎時0.484マイクロシーベルトを記録した。

 突出した数値だが、原因は「よくわからない」(測る会)。またこの場所の土壌からは、1キロ当たり3040ベクレルの放射性セシウムが検出された。他にも、地表から5センチでは、卓球会場となる渋谷区の「東京体育館」、ハンドボールが開催される同じく渋谷区の「国立代々木競技場」などで比較的高い線量を記録した。

 馬術のクロスカントリー会場となる「海の森クロスカントリーコース」では、地表から1メートルで毎時0.29マイクロシーベルトと高い数値が出た。

 現在、都の除染基準は、空間線量が地上1メートルで毎時0.23マイクロシーベルトを上回るか、局所的に周辺より毎時1マイクロシーベルト以上高い場合。0.23というのは、原発事故による年間の追加被曝線量を1ミリシーベルトと定めたICRP(国際放射線防護委員会)の勧告に従い、屋外にいる時間などを考慮し毎時換算した値だ。「局所的」とはいえ、会場候補地の中に、除染が必要なほど放射能汚染されている場所があることになる。

「政府や東京都は被曝可能性のデータを世界中の選手や観客に知らせない。であれば、市民が自分たちの手で測定し知らせることは、東京五輪に賛成、反対の議論は別にして、私たちの道義的責任だと思った」

 測る会の呼び掛け人で、同会のコーディネーターを務める筑紫建彦(つくしたけひこ)さん(70)は話す。

 東京・北区に住む筑紫さんは、東京電力福島第一原発の事故後、「北区子どもを放射線から守る会」の会員として、子どもを被曝から守ろうと活動してきた。3月下旬、筑紫さんの呼びかけに年齢や職業がさまざまな市民が賛同。4~5月中旬の延べ14日間92人が計測した。

 測定結果について、筑紫さんが注目したのは、高い数値もさることながら地域的な広がりだ。周辺と比べ放射線量が高い「ホットスポット」と呼ばれる地点があった東京東部だけでなく、北西部の東京都調布市、埼玉県の朝霞市や川越市などでも低いとはいえない毎時0.15マイクロシーベルトに近い数値が測定された。

「放射性物質が関東全域に広がり、その中に局所的に高いホットスポットが散在することを示していると考えます」(筑紫さん)

 測る会では、測定結果を国際オリンピック委員会(IOC)のジャック・ロゲ会長と約200カ国の国内オリンピック委員会(NOC)に6月、英語とフランス語に翻訳して送った。だがいずれからも問い合わせなどはないという。

AERA 2013年10月7日号