母・藤圭子(享年62)の衝撃的な死を受け、その心情をブログで語った宇多田ヒカル(30)。ヒカルが幼いころから藤は心のバランスを崩しており、2001年頃にはケンカをきっかけに、藤がヒカルを拒むような「没交渉」状態にあったと、芸能関係者は話している。ヒカルは当時の母への思いを05年に発表した「Be My Last」で、こんな風に歌っている。

 母さんどうして/育てたものまで/自分で壊さなきゃ/ならない日がくるの?/バラバラになったコラージュ/捨てられないのは/何も繋げない手/君の手つないだ時だって

 お互い求めあいながらも、遠ざかる母娘の距離──。離婚と再婚を繰り返していた両親は07年に最後の離婚。ヒカル自身も同時期、02年に結婚した写真家で映画監督の紀里谷和明氏と4年半で離婚し、10年には「人間活動」に専念するため、無期限の活動休止を発表した。

 このとき発売した2枚組アルバムに収録された5曲の新曲をみると、ヒカルの心に変化が見える。雑誌のインタビューで、過去との和解や、恐怖と向き合うことをテーマにしていると語っていた。

 その中の1曲、「嵐の女神」ではストレートに「お母さん会いたい」と、祈るように歌っている。精神科医で医学博士の西多昌規さん(43)は、こう読み解く。

「『Be My Last』の歌詞から感じられるのは、私は理想の母を求めているのに、どうしてそうじゃないのですか? という娘の怒り。『嵐の女神』を書いた5年後は、彼女の成長とともに、母の状況を少しずつ受け入れている様子がうかがわれます」

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「嵐の女神」

嵐の女神 あなたには敵わない
心の隙間を埋めてくれるものを 探して 何度も遠回りしたよ
たくさんの愛を受けて育ったこと どうしてぼくらは忘れてしまうの
嵐の後の風はあなたの香り 嵐の通り道歩いて帰ろう
忙しき世界の片隅 受け入れることが愛なら
「許し」ってなに? きっと… 与えられるものじゃなく、与えるもの
どうして私は待ってばかりいたんだろう お母さんに会いたい
分かり合えるのも生きていればこそ 今なら言えるよ ほんとのありがとう
こんなに青い空は見たことがない 私を迎えに行こう お帰りなさい
小さなベッドでおやすみ

AERA 2013年9月9日号