林真理子(はやし・まりこ)1954年山梨県生まれ。デビューエッセイ集『ルンルンを買っておうちに帰ろう』が大ベストセラーに。『最終便に間に合えば/京都まで』で直木賞受賞。『不機嫌な果実』『下流の宴』など著者多数(撮影/写真部・慎芝賢)
林真理子(はやし・まりこ)
1954年山梨県生まれ。デビューエッセイ集『ルンルンを買っておうちに帰ろう』が大ベストセラーに。『最終便に間に合えば/京都まで』で直木賞受賞。『不機嫌な果実』『下流の宴』など著者多数(撮影/写真部・慎芝賢)

 今、驚異的な勢いで売り上げを伸ばしている書籍『野心のすすめ』。著者である林真理子氏に、現代女性の「野心」について聞いた。

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 新宿を歩いていたら、女性読者から声をかけられました。

「林さん、私『野心のすすめ』読みました。野心持って頑張ってやります」

 それくらいガッツがあるのは今の時代、女性だと思います。男性のほうが野心がない。

 女性は組織や社会の中では、なかなか1番になれません。家庭を持っていると時間の制約があり、男の密談に加われないから。女性登用という名の下にポジションを与えられても、周りからは冷ややかに見られたりして、本人もつらい。だから、女性自身が「2番手のポジションで波を避けていたほうがラク」と思ってしまう傾向があります。でも、女性こそ上昇志向を持ってほしい。優秀な人がいっぱいいますから。最近は、バブル期のような愛人を疑わせるような女性は少なく、実力でスマートに登ってきている女性が多くていいなと思います。

 野心を持つなんてガツガツしていて嫌だという人もいるけれど、がむしゃらに無理めのハードルを越えてみると違う世界が見えてくる。一流の人と付き合える幸せもある。他人から嫌われたくない、ウザイと思われたくないという理由で、その幸せを逃すのはもったいない。現状に不満を感じ、もっと上に行きたいとうらやみ、努力をするって、とても健全だと思う。

 ただ、自分で何の努力もせずに、ラクして野心をかなえようとするのは間違っている。電車で突然、私に作品を見てほしいと声をかけてきた人がいたけれど、新人賞くらいは取ってから来なさい、と。

 女性に特に言いたいのは「野心は二者択一ではない」ということ。仕事をするからと、出産を諦めないでいい。自分がこうしたいと思うことは、欲張りになって全部つかんだほうがいいと思います。

AERA 2013年8月12-19日号