森永乳業 広告部中川美穂さん協賛した舞台で行った「森永アロエヨーグルト」のサンプリングも、実施のたびにツイッター上で小さな話題になっていることが分かった。「サンプリングは効果が不明瞭だったけど、やることに意味があると分かった」 (撮影/横関一浩)
森永乳業 広告部
中川美穂さん
協賛した舞台で行った「森永アロエヨーグルト」のサンプリングも、実施のたびにツイッター上で小さな話題になっていることが分かった。「サンプリングは効果が不明瞭だったけど、やることに意味があると分かった」 (撮影/横関一浩)

 顧客データや工場の出荷状況、商品についてのツイートなど、刻一刻と巨大化するビッグデータ。「宝の山」でもある、その情報の渦の中から、一筋の光を見いだすのが、データ分析の統計知識を持つ社員たちだ。

 森永乳業の広告部で働く中川美穂さん(24)は、パソコン画面にひとつの発見をした。

 中川さんを悩ませていたのは、昨年10月に発売した「リプトン抹茶ミルク」。発売直後から大ヒットしたが、理由がよく分からなかった。大型スーパーが特売をしたのか、広告が共感を得たのか。答えを提示してくれたのは、ツイッターやブログなどソーシャルメディアの分析だった。

「リプトンの抹茶ミルクなう♪めちゃうま(*^^*)」
「紅茶やないの初めてみたけん、思わず買っちゃったぁ。濃いくて美味しい」

 広範囲な意味分析機能を持つ「自然言語処理」によって、商品名と共に発せられた名詞や形容詞を検出したところ、ポジティブなワードがズラリと並んだ。商品を飲む写真をアップするユーザーまでおり、口コミは通常時の約60倍もあった。

 矢野経済研究所が12年に発表したデータによると、ビッグデータ技術やサービスの国内市場規模は、20年度に1兆円を超えると予測される。データの渦から見つかる想定外の「お宝」は、正解の見えない戦いを強いられる企業にとって、まさに「蜘蛛の糸」なのだ。ソーシャルメディア上の投稿の収集・分析を手掛けるデータセクションの澤博史社長はこう言う。

「“100人に聞きました”では見えないものが、“100万人に聞きました”だと見えてくるのです」

 宝が眠るのは、ソーシャルメディアの中だけではない。スーパーのチラシにそれを見いだしたのは、アサヒビールで小売りや流通向けの販促を担当する坂上朋之さん(34)。

「スーパーの戦略を知りたい」と、全国から小売り100社のチラシを取り寄せ、「見出し」をパソコンに入力した。その数、なんと6万5千行。その分析から、昨夏は「牛肉」「うなぎ」といったスタミナ系キーワードより、「冷やし中華」「フルーツ」など涼しげな単語が多く使われていたことが分かった。そこで、涼しげな販促物によってビールの売り上げを伸ばしたいと考えた。

「冷やし中華に合う酒を提案したらどう?」「ビールに氷入れたらダメ?」などといった同僚たちとの議論を経ながら、企画を模索。氷と水を入れる2層構造の「カチ割りジョッキ」を景品として開発した。その結果、景品の対象商品は、予想を上回る80万箱の受注につながった。

AERA 2013年7月22日号