園庭を取り囲むように民家が隣接する世田谷区の東北沢ききょう保育園。毎朝9時から、0歳から5歳までの約90人が屋外で遊ぶが、開園以来大きな苦情は出ていないという(撮影/写真部・久保木園子)
園庭を取り囲むように民家が隣接する世田谷区の東北沢ききょう保育園。毎朝9時から、0歳から5歳までの約90人が屋外で遊ぶが、開園以来大きな苦情は出ていないという(撮影/写真部・久保木園子)

 今、幼稚園の園庭などで遊ぶ「子どもたちの声」に、クレームが寄せられるケースが増えている。こうした現状をうけてか、8月25日、東京都世田谷区の保坂展人区長が自身のツイッターで「役所に寄せられるクレームの中で、『保育園で子どもたちの声がうるさい』というものがある」「防音壁を作ったり、子どもを園庭に出さないということも起きている」と発信。たちまち賛否両論の反応が相次いだ。

 保坂区長はツイートの真意について、次のように話す。

*  *  *

 周辺住民からの苦情で、保育園の外遊びの時間が制限されている。この現状には、「子は宝」という少子化時代の建前に隠された、子どもは「迷惑物」という社会の本音が見えます。このままでは日本はダメになるのではないか。私はそう社会全体に問いかけたい。

 ツイッターへの投稿には、予想以上の反響がありました。なかには、聴覚過敏症などの疾患を持つ人や、大きなストレスを抱えて孤立した生活を送る人たちの苦悩を切り捨ててはいけない、といった意見もありました。もちろん、そうした配慮は必要でしょう。しかし行政がその場限りの対応をするだけでは、本質的な解決にはなりません。

 1980年代から90年代に、ジャーナリストとして校内暴力やいじめ問題を追ってきました。掘り下げていけば、これらの問題も幼児期の集団遊びの機会と経験が足りないことと関連しています。大声で泣いたり笑ったりといった経験は、子どもの発達に欠かせないもの。子どもの遊ぶ権利を奪うことは、必ず社会に大きなひずみを生むでしょう。

 9月22日に開いたツイッターオフ会には、区内外から大勢の人が集まりました。多く聞かれたのは、子育て中の若い親たちの嘆きです。いくら子育て支援を充実させても、子どもの声を不愉快と感じる社会の中では子どもは育ちません。一方で、「行政だけが苦情に対処するのではなく、もっと問題を地域に投げ返してほしい」という有意義な意見もありました。

 保育園に限らず、近隣騒音問題は長年続いてきました。たとえ時間がかかっても、地域が主体的にコミュニティーを再生するなかで解決していくことが求められています。

AERA 2012年11月26日号