東京・丸の内のオフィス街の中心にある新丸ビル。8月末から、7階にあるレストランフロアで「高野山カフェin丸の内ハウス」というイベントが開催された。東京の若い世代に高野山の魅力を知ってもらおうと始めたもので、今年で3年目。例年およそ10日間の期間中に7千人ほどが訪れる。若手のお坊さんたちが高野山からやってきて、写経や瞑想(めいそう)体験を指導したり、車座になってのフリートークにも応じたりする。体験型企画は2時間から4時間待ちという盛況ぶりだ。参加者の8割は女性。年齢は様々だが、オフィス街という場所柄か、30代から40代の女性が多い。

 クライマックスとも言えるのが9月6日にあった「声明(しょうみょう)」というお経のライブだ。きらめくミラーボールの下で、お坊さん5人がお経を唱和する。高野山で朝のお勤めの際、毎日唱えられているものだという。開始時刻には300人を超す老若男女が集まった。場所取りでいさかいが起きるほど、聴衆の熱気はムンムンだ。

 東山教清さん(38)が冒頭にあいさつする。

「少しでも癒やしの気持ちを持ち帰ってください」
 
 20分のライブはお経が続くだけなのだが、その場を離れる人はほとんどいなかった。終わると拍手喝采だ。終了後、僧侶たちには記念撮影の列ができていた。

 一番人気は司会をしていた東山さんだ。30代のOLは、

「今、仏教にはまっていて、比叡山には、月に1回通っています。東山さんは『美坊主図鑑』に載っていらっしゃいますよね」

 と言う。

美坊主図鑑』(廣済堂出版)とは、今年2月に出版された、イケメンのお坊さん40人を紹介した本だ。「人生に疲れてもあなたにはこの、お坊さんがいる」の帯で「美坊主ブーム」に火をつけた。お寺参りに熱心な「寺社ガール」のバイブルだ。

 実際、東山さんは時代劇に登場しても違和感のない美坊主。それもそのはずで、元俳優という。徳川家康も宿泊した名門塔頭(たっちゅう)寺院の跡取りとして生まれた東山さんは、都内の大学を卒業後、7年間、舞台やテレビに出演。その後、高野山に戻った。『図鑑』で紹介されるや、取材が相次いでいる。

 東山さんは、こう話す。

「最近は、街を歩いていても『美坊主の方ですね』と声をかけられたりします。仏教への『とっかかり』のひとつになれば、と思っています。心に傷を負っている人が多い時代。自分たちも幸せになれるという安らぎを、普通に持てるようになってほしい」

AERA 2012年11月5日号