7月号国文学者 星 瑞穂 Hoshi Mizuhoたのしい地獄の歩き方 (1/2) |AERA dot. (アエラドット)

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7月号
国文学者 星 瑞穂 Hoshi Mizuho
たのしい地獄の歩き方

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『ようこそ地獄、奇妙な地獄』
朝日選書より発売中

 初めて大学の教壇に立ったのが2013年。以来、ずっと筆者を悩ませている問題が「いかに学生に古典文学に関心を持ってもらうか」である。就職活動になりふり構っていられない学生に「古典文学なんか就職に役に立たない」と言われてしまうと、ぐうの音も出ないのが正直なところだ。ただでさえ受験勉強で、助動詞の活用の暗記という嫌な経験をしてきた子どもたちである。古典文学の豊かさなどと、正論をぶちかますようなことをすれば、ますます嫌いになってしまうかもしれない。

 試行錯誤を続ける中、地獄絵の解説を始めたところ、学生たちの反応が違うように感じたのが2016年くらい。彼らの目がキラキラしている。こんなに、残酷な絵なのに?

 そのとき気付いたのが、漫画『鬼灯の冷徹』(江口夏実、講談社)のヒットだった。地獄を舞台に、冥界の役人である主人公・鬼灯と、その主君である閻魔王や、「あの世」を支配する十王たち、さまざまなキャラクターが罪を犯した亡者を断罪するブラックコメディである。この漫画は作者独自の世界観を大きく打ち出しつつも、中世文学の説話世界を絶妙に織り込み、小野篁(八〇二~八五三、平安時代初期の公卿で、「あの世」で役人として閻魔王に仕えていたという伝説が『今昔物語集』などに収められている)など実在の人物も登場させる。

 筆者が膝を打ったのは、紫 式部(生没年不詳)を登場させたところだ。実は、紫式部は『源氏物語』を書いた罪で地獄に堕ちたという伝説が、平安時代末期の仏教説話集『宝物集』などに収められている。

 この漫画は、古典文学に刻まれたおもしろいエピソードを、漫画という新たな形式で蘇らせ、再び若者を魅了した。思うに、そもそも「地獄」は、新たなメディアが世の中に生まれるたびに、装いを新たにして繰り返し描かれてきた。


(更新 2021/7/ 2 )


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