組体操の指導と普及に取り組む、関西体育授業研究会の大阪教育大学付属池田小学校の垣内幸太教諭は、組体操の最大の魅力は"感動"であるとして、以下のように述べています。



「55人規模の大きなピラミッドにおいて、最も大きな負担のかかる子どもたちは、外からはその姿を見ることはできません。それでも、その子どもたちは、たとえ膝に小石が食い込んでも、歯を食いしばりピラミッドの完成を願っています。そんな彼、彼女らを信頼しているからこそ、最後の一人は、勇気を出してピラミッドの頂上で両手を広げることができるのです。



 もちろん最初からそんな信頼関係が存在しているわけではありません。何度も失敗を重ねながら、何度も練習を積んでいくからこそ、その信頼が生まれていくのです。保護者たちも、子どもたちのその努力を知っているからこそ、感動してくれるのです。そして、私たち教員も、その過程を知っているからこそ、ピラミッドが完成したとき目に涙を浮かべるのです」(『子どもも観客も感動する! 「組体操」絶対成功の指導BOOK』より)



 この「感動」や「一体感」といったスローガンを背景に、ピラミッドや「人間タワー」の巨大化・高層化が普及し始めたのは2000年代になってから。やがて10段以上、最大で高さ7メートルにも及ぶ巨大ピラミッドが作られるようになりました。



 しかし、「組体操リバイバル」とも言うべき普及の影で、組体操が、跳箱運動やバスケットボールに次いで事故が多い競技であることは、あまり知られていないようです。



『教育という病 子どもと先生を苦しめる「教育リスク」』著者の、名古屋大学大学院准教授、内田良氏の指摘によれば、1人の生徒に200キロ以上の負荷がかかることや、ピラミッド上段から落下した生徒が、骨折をはじめ、頸椎・腰椎損傷などで重篤な障害が残るなど、深刻な事故も多発しており、2012年度では小学校における組体操中の事故は約6500件にも上っています。



 内田氏によれば、「労働安全衛生規則」では、2メートル以上の高所作業を行う場合、手すりや囲い、足場の確保が定められていますが、学校行事においては、こういった配慮はほとんどなされていません。



 安全確保のための最大限の配慮と言っても、せいぜい巨大ピラミッドの周囲に、補助の教員を数人配置するというもの。内田氏は、「7メートルから転げ落ちる子どもを安全に受け止められるなど、いったい誰が保証できようか」と危険性を述べ、「今日の運動会を見る限り、その安全対策はまったくの不十分なものである。保護者や地元住民からの喝采を得るべく、先生たちはリスクを楽観視して、派手なパフォーマンスに夢中になっているように見える」、(『教育という病 子どもと先生を苦しめる「教育リスク」』より)と指摘しています。



 内田氏は、"組体操に怪我はつきもの"という考え方は、"組体操のためなら、どれだけ怪我をしてもよい"という開き直りであり、"そもそも巨大なピラミッドに挑戦するから、怪我をしてしまうのでは?""安全指導の問題ではなく、無茶なことを子どもにさせているのでは?"といった疑問を拒絶する、思考停止状態にあると解説しています。



 組体操に習熟している関西体育授業研究会でさえ、「周到に安全対策を行っても、絶対に怪我をしないという保証はありません」(『子どもも観客も感動する! 「組体操」絶対成功の指導BOOK』より)と記述しているように、組体操にリスクはつきもの。それでも組体操を実施する教育的意義がどこまであるのか、学校側も保護者側も、考える必要があるのではないでしょうか。