「ニート」というと、就学も就職もせず、家に引きこもっている人を想像する方も多いかもしれません。しかし、多くのニートはそんな状況を望んでいるわけではなく、どうにか現状を打破しようともがいている人だって少なくありません。



 書籍『リヤカー引いて世界の果てまで』の著者である吉田正仁さんも、将来に対して悩んでいるニートの一人でした。そんなある日、"ダメな自分"と決別するため、彼は外国で暮らす人々の生活を自分の目で確かめようと、世界一周の旅に出ることを決意します。しかも、徒歩で。あろうことかリヤカーを引いて......実に4年半もかけて地球一周分に相当する約4万キロを歩き抜いたのです。



 上海からスタートし、ユーラシア大陸、北米、オーストラリア、東アジア、台湾などを踏破した後、日本に帰国後も大阪市から鳥取県の実家までリヤカーを引きつつ歩き続けた吉田さん。本書では、彼が4年半かけて巡った世界33か国の人々との"触れ合い"が描かれています。各国の現地の人々の生活のみならず、指切断の危機や盗難被害、との戦いなど数々の「普通じゃない経験」も見どころの一つ。



 ニートという現状に甘んじることなく、世界に飛び出した吉田さん。その功績を讃えられ、2013年に出身地である鳥取県が創設した「鳥取県栄光のチャレンジャー賞」の第一号を受賞しました。ダメな自分から栄光のチャレンジャーへ。旅が彼にもたらしたものは、こうした称号だけではないはずです。



 しかし、当の本人は本書の中で、旅で得られたことについて、淡々とこう述べています。



「世界一周の旅を終えた後、上海人民広場で『出発前と比べて私は変わっただろうか』と考えてみたものの、皆に堂々と誇れるような劇的な変化があったわけではなかった。(中略)しかし真面目に一つ挙げてみるなら、距離感が大きく変わったことを実感している。大阪から自宅への二三〇キロという距離がずいぶんと短く感じられた」(本書より)



 世界一周したところで特になにも変わらなかったが、230キロは(歩いたとしても)短い距離――自嘲的な表現のようにも読めますが、とんでもないことをやり遂げた人間だからこそ、たどり着いた境地なのかもしれません。



 元ニートの"世界一遅い旅人"が語る、4年半にも及ぶリアルな旅行記。気になる方は、ご一読を。