今年は東日本大震災後、初めて「原発ゼロの夏」を迎えます。



 関西電力管内と九州電力管内は、周波数の異なる東日本(東京電力)から電力融通を受けることで、安定供給に必要最低限とされる予備率3%をギリギリ確保する見通しにあり、厳しい受給調整を迫られます。一方、原発停止に伴う代替電源である火力発電向け燃料の輸入増加が貿易収支を悪化させる一因に。また、電気料金の引き上げに伴う家計や企業への圧迫などの問題もあります。そんな中、数値目標はないものの、今年も政府による節電要請がありました。



 脱原発を進めるにしても、再稼働するにしても、様々な問題が複雑に絡み合っており、解決するのは容易ではありません。ただ、「原発ゼロの初めての夏」を迎える今年は、これまでエネルギーのことを他人任せにしてきた私たち一人ひとりが「今後のエネルギーのあり方」や「生活の仕方」、「これからの社会の在り方」などを自分のこととして考えるいい機会なのかもしれません。



 今回ご紹介する『コミュニティ発電所』は自然エネルギーの観点から、今後のエネルギーや私たちの暮らしを考え直すきっかけを与えてくれる一冊です。著者はNPO環境エネルギー政策研究所で国内外の自然エネルギー政策や事例を調査・研究するとともに、国内の地域主導型自然エネルギー事業を支援している古屋将太さん。2012年1月AERA「日本を立て直す100人」にも選ばれました。



 本書では、全国各地で起こっている「脱原発の先にある持続可能な社会」を目指す自然エネルギーへの取り組みが、どのようにして生まれ、どのような人たちが、どのような思いで活動しているのかを著者自身が関わった事例を通して、体験談を交えながら語られています。また国内だけではなく、環境先進国の北欧やドイツの例を挙げて、世界的な自然エネルギー事業の流れを紹介。著者の自然エネルギーにかける思いや、自然エネルギーで地域や社会を良くしたいという思いが等身大の表現で書かれており、自然エネルギーの魅力が伝わってきます。



 地域主導の自然エネルギー事業は「ご当地電力」「市民電力」などと呼ばれ、北海道から九州まで各地に広がっています。現在は太陽光発電のシェアが大きいですが、風力、小水力、バイオマス、地熱などの取り組みも徐々に増えているようです。



 各地の取り組みから分かることは、地域主導の「コミュニティ発電所」は大企業でなくてもつくれること、住民自らが関わることで、人と人がつながり、住民同士の結びつきが強まったり、それらの交流から何かが生まれ、地域が元気になるなど、地域再生につながる「地域の活性剤」としての役割もあることです。



 本気で国のエネルギー政策を変更しようというのであれば、我々の社会を根幹から見直す必要があります。そのことで被る「損害」もしっかり把握しておかなければいけません。気になる方は本書を読んで、これからのエネルギーのあり方や暮らしについて考えたり、家族や恋人、仲間と話し合ってみてはいかがでしょうか。