IOCが金もうけに走る一方、日本側もオリンピックを「政治利用」した。ザハ・ハディド氏設計の新国立競技場の総工費が、当初予算を大幅に上回る2520億円に膨らむと、安倍首相は15年7月、見直しを明言する。鹿島さんはそのタイミングに注目した。

「安倍さんの表明は、安保法案の強行採決をした直後。五輪に関してヒーローっぽい会見をして、安保法案から目をそらそうとしたわけです」

佐々木宏(クリエーティブディレクター) (c)朝日新聞社
佐々木宏(クリエーティブディレクター) (c)朝日新聞社

 政治家といえば、組織委員会のトップだった森喜朗氏も忘れてはいけない。女性蔑視発言で辞任に追い込まれただけでなく、自身の肝いりで開会式の演出統括の座に就けたとされる佐々木宏氏も、週刊文春で女性蔑視の言動を追及されて辞任した。東京大会の基本コンセプトは「多様性と調和」なのだが……。

「哀しいですね。世界に新しいメッセージを発信する機会なのに、価値観をアップデートできない“昭和のおじさん”たちが実権を持っていた。そもそも五輪をやれば経済が回る、東京が再生するという発想が、昭和。発展途上国ならともかく、2度目なんですから別の価値観を持った大人の五輪を目指すべきでした」

森喜朗(前大会組織委会長) (c)朝日新聞社
森喜朗(前大会組織委会長) (c)朝日新聞社

 森氏同様、すっかり悪役になったのが「ぼったくり男爵」ことIOCのトーマス・バッハ会長だ。問題発言を連発し、今月13日には組織委の橋本聖子会長と面会した際、「日本の人々」と言うべきところを、あろうことか「中国の人々」と言い間違えた。

「つい本音が出たんですね。バッハさんにとっては、日本よりも中国のほうがずっと上客。来年の北京冬季五輪を成功させるために、日本は今回、滞りなくやってくれればいいと考えているんですよ。バッハさんにすれば、東京はかませ犬なんです。何で日本の国士といわれる人たちは、ここまでIOCに邪険にされて黙っているのか。“愛国者”の皆さん、これでいいんですか?」

 政治利用は、菅義偉首相にも引き継がれている。コロナ感染の抑え込みに完全に失敗し、ワクチン接種をめぐる施策は迷走。東京都議選をはじめ、直近の選挙で自民党は振るわず、何とか五輪を成功させたうえで解散・総選挙に臨もうという魂胆が見え見えだ。

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