小池百合子東京都知事が首都ロックダウン(封鎖)の可能性について度々言及しているが、ニューヨークにおいては「ロックダウン」という言葉は正式には使われていない。

 代わりに「Stay at home order(自宅待機令)」という言い方がされている。その言葉の通り、食料や医療品の買い物など必要のある場合以外は、市民に自宅で待機する事を求めるものだ。「外出の自粛を要請」といった表現に留まっている日本の行政府の施策と比べると、かなり強固な印象を受ける。

ニューヨーク市内を走るバスは運転手をウイルス感染から守るため利用者が近付けないように車両前列が鎖で仕切られていて、現在無料で利用できる(撮影・新垣謙太郎)
ニューヨーク市内を走るバスは運転手をウイルス感染から守るため利用者が近付けないように車両前列が鎖で仕切られていて、現在無料で利用できる(撮影・新垣謙太郎)

 しかし運動のための散歩やサイクリングなどは認められており、ヨーロッパのように罰則があるわけではないので、各個人の自主的な判断に委ねられている部分もあるのだが。

 目を引くのは、4番目の「ソーシャル・ディスタンシング」という言葉だろう。簡単に言えば「公の場では6フィート以上他人と距離をとること」である。この6フィートという距離は咳やくしゃみによってウイルスが他人に届く距離と考えられていて、これによってウイルスに感染するのを防ぐ目的があるという。

「手洗いをする」、「消毒をする」、「なるべく外出をしない」といった基本的な予防策に並び、この数週間ニューヨークで最も実践されているのがこの「ソーシャル・ディスタンシング」である。

■「ソーシャル・ディスタンシング」はどれほど浸透しているのか

 著者の20年のアメリカ暮らしのなかで、「ソーシャル・ディスタンシング」という言葉を聞いたのは初めてである。念の為に周りのアメリカ人にも聞いてみたが、皆口を揃えて「聞いたことがない」という。しかしここ数週間の間に徹底してみんな実践して、今ではそれが自然に身についてしまった。

ニューヨーク市内にある電光掲示板には市民の自宅待機を促すメッセージが各所で表示されている(撮影・新垣謙太郎)
ニューヨーク市内にある電光掲示板には市民の自宅待機を促すメッセージが各所で表示されている(撮影・新垣謙太郎)

 例えば外の通りを歩いていて他人とすれ違う際にも、狭い道であればお互いに道すれすれの反対側を歩いて距離を取る。レストランでテイクアウトをする際にも、支払いをするレジの前にテーブルなどの遮断物を置いて距離を作る店も増えている。

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ウィルス感染の拡大をどう止めるか