五ノ井里奈『声をあげて』(小学館)
五ノ井里奈『声をあげて』(小学館)

■憧れた自衛隊 今でも好き

 加害者による謝罪の様子は非公開だったが、自著には克明に綴られている。12月15日、防衛省は計5人を懲戒免職に。同省はハラスメント被害の実態調査結果を公表、隊員(元隊員含む)からの申告制で1414件の申し出があった。五ノ井側も、オンライン署名サイト「Change.org」で同様にアンケートを実施したところ、性別・性的指向を問わず、酷い内容が多々集まった。五ノ井は言う。

「ずっと、自分の部隊だけが酷かったと思いたかった。いろんな部隊で被害があり、男性隊員の方も遭われていて言葉を失いました。でも、ものすごく勇気を出して言ってくださった」

 23年1月30日、五ノ井は元隊員5人と国を相手取り、損害賠償を求める民事訴訟を横浜地裁に提起した。そして3月17日、福島地検は、元隊員3人を強制わいせつ罪で在宅起訴した。五ノ井は語る。

「女性隊員を増やすことも勿論大事だと思うんですけど、全部の男性隊員が悪いわけではない。上の人たちの(意識)改善が必要だと思います。もっと隊員を守ってほしい」

 そしてこう付け加えた。

「自衛隊に対して強い憧れを持っていました。今でも、自衛隊のことを好きです」

 裁判が始まる。あの日のことを、もう一度、法廷の場で蒸し返される。それでも闘いをやめない。

「記録として残すことによって、誰かが救われるとか、背中を後押しできればと思います。最終的には、ひとのためになる生き方をしたい。本当は、こんなに勇気を出さなくても、そこにいる環境で皆が声をあげていけばいい。その場で言える勇気を持ってほしい。『私は、今いる環境で何ができるだろう』っていう考え方に変わってほしい」

 尊厳を取り戻すため、五ノ井の闘いは続く。(ライター・加賀直樹)

(文中一部敬称略)

週刊朝日  2023年6月2日号