英エコノミストは、有料デジタル版で成功。部数を伸ばし続ける唯一の週刊誌。最新の契約者数はグローバルに118万5千人。2021年5月1日号の表紙
英エコノミストは、有料デジタル版で成功。部数を伸ばし続ける唯一の週刊誌。最新の契約者数はグローバルに118万5千人。2021年5月1日号の表紙

 グローバルに読者をもつ英『エコノミスト』のお家芸に「予測報道」がある。

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 毎年12月には、翌年の様々な分野でのトレンドを予測する『The World in』という年刊誌も出している。もちろん予測は外れることもある。たとえば『The World in 2022』では、緊張高まるウクライナ情勢にそれでもロシアの侵攻はない、としていたが、外れたら外れたで、Podcast等でなぜ外したのかを自己分析する。

 そうした過程で読者は、問題を重層的に理解することになる。

 そのエコノミスト誌が、2018年ごろからしばしばとりあげるようになったのが、米中対立の帰趨だ。なかでも2021年5月1日号のカバーをみたときは、どきりとした。台湾がレーダーの照準にあり、「The most dangerous place on Earth 地球上もっとも危険な場所」とタイトルを白地で抜く。

<米国は、中国の武力による台湾侵攻を抑止することはできなくなりつつあると恐れている。インド太平洋海域を担当するフィル・デービッドソン提督は議会で3月にこう証言している。2027年までに中国は台湾を攻撃するおそれがある、と>

 2023年3月11日号のカバーはさらに直截(ちょくさい)だ。水陸両用戦車がまさに上陸せんとするイメージ写真をつかって「台湾有事」の様々な側面を予測報道している。たとえばアメリカは全面戦争を恐れているが、台湾は、もっとグレーゾーンを中国が攻めてくることを恐れている、と。

 台湾本土への侵攻がなくとも、中国大陸沖3キロの金門島を占領したとき、アメリカと国際社会は、台湾を守ってくれるだろうか? という疑問だ。

 日本の新聞も雑誌も、この「台湾有事」の予測報道あるいはシミュレーションをなぜやらないのか、と思う。

 英エコノミストは台湾有事に関して重層的な報道を続けているが、しかし日本がどうそれに巻き込まれるかという視点はない。

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下山進

下山進

1993年コロンビア大学ジャーナリズム・スクール国際報道上級課程修了。文藝春秋で長くノンフィクションの編集者をつとめた。聖心女子大学現代教養学部非常勤講師。2018年より、慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授として「2050年のメディア」をテーマにした調査型の講座を開講、その調査の成果を翌年『2050年のメディア』(文藝春秋、2019年)として上梓した。著書に『アメリカ・ジャーナリズム』(丸善、1995年)、『勝負の分かれ目』(KADOKAWA、2002年)、『アルツハイマー征服』(KADOKAWA、2021年)、『2050年のジャーナリスト』(毎日新聞出版、2021年)。元上智大新聞学科非常勤講師。

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