1946年の正月、日劇の前。こんなにもたくさんの人だかり。別になにをしているわけでもない。ただの人だかりだ。それにしても、こんなにたくさん。

 大津と琵琶湖のカラー・スライド2枚を合成したものは、びっしりと建ちならぶ黒い瓦の家が印象的だった。いまおなじ景色を撮ることは、もう出来ない。

 1946年4月、瀬戸内から広島に向かった飛行機の窓からの8枚の連続写真は面白い。最後のカットでは相生橋が窓のまんなかにある。

 日光の川治温泉と思われるホテルの前に、着物姿の女性たちが何人かで、被写体となっている。当時としてはごく普通の着物なのだろう。着物を着て町を歩いている女性は、おそらく珍しいのだろう、頻繁に被写体となっている。

 マッカーサー元帥がGHQから出てくるまでの連続写真も面白い。GHQ前にはなぜか日本人がたくさんいた。元帥をひと目見たくて押しかけたのだろうか。新東宝スタジオには『石中先生行状記』のオープン・セットがあり、この映画に出演した杉葉子が美しく写真に撮られている。

 きりがないように思える。しかし、見たい。もっとたくさん見たい。『占領期カラー写真を読む』に収録されたカラー写真には、初めて公開されるものが多いという。貴重な記録だ。

 カラー・スライド仕様で仕上げられたカラー・フィルムは、依頼者の自宅に配送される。日本からの無事な帰国を祝って、ごく親しい人たちがパーティを開く。カラー・スライドは余興として披露されたあと、長い眠りにつく。

週刊朝日  2023年4月28日号