店のコンセプトは、「科学を肴に飲む」。アルコールランプでスルメを炙り、燻煙で満ちたシャーレの中には「けむり味」のポテトチップスが。科学者コスプレ(白衣)も楽しめる(撮影/写真映像部・東川哲也)
店のコンセプトは、「科学を肴に飲む」。アルコールランプでスルメを炙り、燻煙で満ちたシャーレの中には「けむり味」のポテトチップスが。科学者コスプレ(白衣)も楽しめる(撮影/写真映像部・東川哲也)

 未知を開拓し、世界の真理を追い求める。そんなサイエンスの喜びを、おいしく楽しくシェアする店がある。今回は、現役の研究者も、数式や化学式とは距離を置く文系出身者も、ともにグラスを傾け、科学の魔力に酔いしれるバーをご紹介。

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「酔っぱらった研究者って面白いんですよ」。science bar INCUBATOR(インキュベーター)を開いた理由について、店主の野村卓史さんは屈託なく笑う。

 野村さんも、以前は大学の研究員として脳卒中の治療法を探っていた。だが、様々な分野の同業者と関わるうち、「基本的に寡黙だが、情熱を注ぐ研究の話はどれもネタの宝庫で興味深い」という、研究者の“生態”に魅了されていく。

「週刊朝日の未来」(※来月休刊)をテーマに、AIがカクテルのレシピを考案。レシピでは「未来をイメージさせる輝くオレンジ色のカクテル」のはずが、謎の緑色に……(撮影/写真映像部・東川哲也)
「週刊朝日の未来」(※来月休刊)をテーマに、AIがカクテルのレシピを考案。レシピでは「未来をイメージさせる輝くオレンジ色のカクテル」のはずが、謎の緑色に……(撮影/写真映像部・東川哲也)

 近年、学校など教育機関主導で、「サイエンスコミュニケーション(科学の面白さを世の中に伝える活動)」が進められているが、ビジネスとして活性化する術はないか。その結論が、バーだった。お酒の力を借りれば、普段はカタめな研究者たちも自然と饒舌になる。

店内には、客同士が交流できる「研究者に何でも聞いてみるノート」を設置。「次のノーベル賞の予想は!?」の問いに、「大すみ先生!!」(大隅良典氏)と的中させた猛者も(撮影/写真映像部・東川哲也)
店内には、客同士が交流できる「研究者に何でも聞いてみるノート」を設置。「次のノーベル賞の予想は!?」の問いに、「大すみ先生!!」(大隅良典氏)と的中させた猛者も(撮影/写真映像部・東川哲也)

「科学とは、未知との遭遇」と目を輝かせる野村さんのもとには、文理問わず様々な経歴の人が集い、夜な夜な科学談議で盛り上がる。

「燗酒と冷酒で味が変わるでしょ? 舌には甘みや苦みなど味を感知するセンサーがあって、温度によってどの味のセンサーが強く働くかが変わるんですよ」

 そんな話をしながら、また一杯。(取材・文/本誌・大谷百合絵)

science bar INCUBATOR/住所:東京都新宿区荒木町7 新駒ビル1階

週刊朝日  2023年4月21日号

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大谷百合絵

大谷百合絵

1995年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。朝日新聞水戸総局で記者のキャリアをスタートした後、「週刊朝日」や「AERA dot.」編集部へ。“雑食系”記者として、身のまわりの「なぜ?」を追いかける。AERA dot.ポッドキャストのMC担当。

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