終戦の日、祖母は、上がりかまちに正座して抜き身の日本刀に打ち粉をして磨きながら、こう僕に言いました。

「敵が来たらこれで刺し違えて死ぬ。お前も侍の子じゃけん、覚悟せいよ」

 エメラルダスやメーテルの奥には、そうした凛とした日本女性の姿があったのだと思います。

 ただ、彼女たちを描きながら、自分でもどこか不思議な想いがありました。

 それが、10年ほど前に謎が解けたのです。

 大洲市に住む友人から、明治維新の頃に撮影されたと思われる1枚の女性の写真を見せられました。

 見たこともない女性です。でもその瞬間、僕はこの女性を、無意識に描き続けてきたのだと本能で感じました。

 僕の母方は大洲藩の流れをくむ侍の家。写真の女性は、その先祖と縁の深い立場にいた方のようでした。まさに、DNAのなせる業です。

 僕の漫画やアニメは近年フランス始めヨーロッパ、アジアなどの海外でも広まっている。戦後70年の日本人の文化や精神が、作品に昇華されている。さまざまな国の若者が共有してくれるのは、うれしいことです。

 他方で僕は、戦後70年を経てもいまの日本は、民俗のあるべき姿を取り戻せていない「亡国の民」であるように感じています。

(聞き手/編集部・永井貴子)

※週刊朝日2015年7月17日号の記事に加筆