近畿大学のインキュベーション施設「KINCUBA Basecamp」
近畿大学のインキュベーション施設「KINCUBA Basecamp」

 日本でも大学から起業の熱がわき始めた。大学が持つ高度な研究成果を事業化した「大学発ベンチャー」が急増しているのだ。学生の起業意欲を高めるユニークな取り組みも続々と登場している。起業が日本の将来を救うのか? その最前線を追った。

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 近視や老眼、ドライアイの研究で世界の注目を集める会社がある。慶應義塾大学発のベンチャー「坪田ラボ」だ。

 創業者の坪田一男社長は同大医学部の名誉教授。眼科学で教鞭を振るっていた2012年5月に、新しい治療薬の開発などを目指して会社を立ち上げた。大学教授が製薬会社と共同研究する例は珍しくはないが、自ら事業化に踏み切ったのには、深い理由があった。

「04年に慶大の教授に就任して21年に退官したんですが、この間、日本の医薬品・医療機器の貿易赤字が急速に深刻化してきたんです。医薬品は19年時点でも2兆円以上の赤字。いまはさらに大きくなり、医療機器の赤字も含めると4兆円まで増加しています。大手製薬会社などに頼るこれまでの体制だと、日本の医療の未来はないと考えています。外貨を稼げていないわけですから」

 坪田氏は、太陽光に含まれる「バイオレットライト」が近視の進行を遅らせるという研究を進めていた。事業化することで利益を確保し、それを研究資金に回してさらなる事業の拡大を目指そうと考えた。その狙いは当たり、いまでは大手企業と共同で、近視の進行を抑える眼鏡やドライアイの治療薬の開発を進め、海外進出も視野に入れる。昨年6月には東京証券取引所グロース市場への上場も果たした。

「日本の大学は欧米に比べて、『知』を産業に変換する力が圧倒的に欠けています。なので、慶大が持つ『知』を産業化するために、さまざまな手を打ちました」と坪田氏は言う。

 起業当時は自身のことだけを考えていたが、岡野栄之医学部長(当時)に頼まれ、慶大医学部の知財・産業連携タスクフォース委員長に就任した。起業の熱をまずは医学部内に広めるためだ。

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唐澤俊介

唐澤俊介

1994年、群馬県生まれ。慶應義塾大学法学部卒。朝日新聞盛岡総局、「週刊朝日」を経て、「AERAdot.」編集部に。二児の父。仕事に育児にとせわしく過ごしています。政治、経済、IT(AIなど)、スポーツ、芸能など、雑多に取材しています。写真は妻が作ってくれたゴリラストラップ。

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