ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「マツコ・デラックスさん」について。

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 相も変わらずその一挙手一投足がいちいちニュースになる人と言えばマツコ・デラックスです。「マツコ」でネットニュースを検索してみると、連日テレビやイベントなどで発した言葉が硬軟取り混ぜて見出しとなっています。

 とあるニュース記事では「マツコ番組オープニングでまさかの行動…」と、思わせぶりなタイトルが付けられていました。「どうせ屁でもコイたんじゃないの?」と思い読んでみたら、その通りでした。新宿2丁目で知り合って早20年以上が経ちましたが、あの頃は何の珍しさもなかった彼女の「屁」が、今やニュースとしての値打ちを生んでいる。あの分厚い尻たぶを波打たせながら空気中に放たれる放屁音は、昔から独特でした。肛門から外界までのストロークが他人よりも長いため、音の高さ、速さ、振動の強弱、水気の有無で、その日の体調や機嫌が分かるので、楽屋に入ると必ず「一発」確認するのが日課だったものです。ひとたび値打ちがあると知った今、その気になれば今週の原稿丸々「マツコの屁」で埋めることも正直容易いのですが、私もイイ大人です。そんな虚しい方法でお金を頂くわけにはいきません。

 それにしても「放屁」までをもありがたがられるマツコ・デラックスという生き物。彼女の羞恥心やデリカシーというのは、「屁」とはまったく別のところにあるため、まさに「屁でもない」とは思いますが、今や世間は彼女の「食・消化・吸収・燃費・排泄」のすべてに価値を見出していることになります。

 そんな「マツコを欲しがる世の中」は、一向に止まる気配がないわけですが、斯く言う私も、よく自分のトークの中に「マツコ・エピソード」を盛り込むことがあります。特に制作側の方から依頼されるわけではありませんが、「ミッツなら何かしらマツコさんの話をしてくれるかも」という暗黙の期待が存在し、その期待に応えることもまたテレビにおける私の値打ちのひとつだと思うからです。

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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