佐々木央(ささきひさし)/ 1956年、青森県生まれ。82年、共同通信社入社。2008年から「生きもの大好き」の連載スタート。著書に『未来なんか見えない 自傷する若者たち』(共同通信社)、編著書に『岐路から未来へ』(柘植書房新社)など。(撮影 朝山 実)
佐々木央(ささきひさし)/ 1956年、青森県生まれ。82年、共同通信社入社。2008年から「生きもの大好き」の連載スタート。著書に『未来なんか見えない 自傷する若者たち』(共同通信社)、編著書に『岐路から未来へ』(柘植書房新社)など。(撮影 朝山 実)

「すみません。何度も聞き返すかもしれません」

 子供の頃から難聴だとインタビューの初めに明かされた。佐々木央さんは共同通信社の記者だ。「聞く」のが仕事ゆえ記者会見場ではいつも前列を目指す。苦労もあっただろうが、弱みを隠さない。

 本書『ルポ 動物園』(ちくま新書 1034円・税込み)は、動物園や水族館で働く人たちとの対話から生まれたルポで、もととなる「生きもの大好き」の連載記事は2008年から現在も続き、750回を超える。ジャイアントパンダやコウノトリなど希少な「カリスマ種」のいる動物園から、サンマやイカなど鮮魚売り場でも目にする「ノンカリスマ種」も展示する水族館まで全国を回ってきた。

 たとえば横浜市の「ズーラシア」でキリンの先祖のようなオカピを担当する飼育員に話を聞いたときのこと。「かわいい」の一言を引き出そうと水を向けるが、ざらざらの長い舌でぺろぺろなめられると「やすりをかけられるみたい」「変なやつなんですよ」とクールな感想しか返ってこない。そんな、すれ違いの舞台裏を軽妙に綴る。

「こちらの都合に合わせた言葉を引き出そうとしていたんです」と佐々木さんは笑う。「何事も聞いてみないと」という心構えで取材を重ねるうち、次第に虜になっていった。

 福島県いわき市の「アクアマリンふくしま」の安部義孝館長(当時)は「よく動物園に来て『かわいい』というでしょ、あの対象がカリスマ種なんです。かわいくないというのがノンカリスマかな」と話し、自館は後者に力を入れているという。

 佐々木さんはそれまで「カリスマ種」ばかり取り上げてきた。だが館内を回り、初めてイワシやイカ、サンマが泳ぐのを目にして、ワクワク感が抑えられなくなった。サンマの水槽が暗くしてある理由については、光や音に敏感なため、驚くと水面からジャンプして飛び出すからと教えてもらう。

 とはいえ、ふだん目にする魚を見るため、わざわざ水族館に足を運ぶ人がいるのか。そんな気持ちで頁をめくると、サンマのウロコについて、担当者から説明を受けた佐々木さんの気づきが記されている。

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