杉田さんの〝身代わり〟の湯飲み。金継ぎの模様が人の姿のようにも見える
杉田さんの〝身代わり〟の湯飲み。金継ぎの模様が人の姿のようにも見える

きれいに金継ぎが施された湯飲みが戻ってきたのは昨年11月。ヒビは、ちょうど人が万歳をするような形をしていた。

地震のとき僕の身代わりのように壊れた茶碗が忘れられません。今使っているこの湯飲みはあの茶碗の代わりの品で、何かが宿っているに違いないと。僕の人生を継いでくれていると思って今後も大事に使い続けたい」

■愛息が離さないマイぬいぐるみ

 長く使えばおのずと愛情は深まる。現在28歳になる長男が生まれたときに買ったファミリアベアーのぬいぐるみを修理してもらったのは、50代の富沢芳(かおり)さん。一家は転勤族で、飼いたくてもペットが飼えなかった。

「子供たちはペットの代わりにぬいぐるみを家族同様に大切にしてくれました。息子は大学生になっても、お守り代わりにファミリアベアーの『ファミチャ』をカバンの中に連れていたほどでした」

 富沢家にはファミチャ以外にもたくさんのぬいぐるみがいたというが、修理に出したのはファミチャとダッフィーの「ダフィ男」くん。特にファミチャは28年連れ歩いたためクタクタ。目が取れ、足裏の生地もボロボロで、5年ほど前にぬいぐるみも扱う老舗の洋品店でも、「できません」と修理を断られた。

「私の母は手芸が得意で、ネットで話題になった江ノ電のスズメのオブジェの洋服を作ってニュースにも取り上げられたことがあるんですけど、母でも直せないって。諦めていたのですが、テレビでぬいぐるみのお医者さんがいると知って修理を依頼しました」

富沢さんの息子たちが大切にしたファミチャ(左)とダフィ男
富沢さんの息子たちが大切にしたファミチャ(左)とダフィ男

 杜の都なつみクリニック(東京都千代田区)に入院させると、失っていた目も入り、足の裏もきれいになって、くたっていた綿も元通り。一緒に入院したダフィ男くんも新品同様の姿で戻ってきた。

「本当に元通りになっていて驚きました。孫ができたら孫にも使ってもらえるかもと、今から楽しみです。治療費は安くはありませんでしたが、ペットを飼っていたらもっとかかりますからね(笑)」

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