人生の終わりにどんな本を読むか――。日本パンダ保護協会会長で、前・上野動物園園長の土居利光さんは、「最後の読書」に母の日記を選ぶという。

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 パンダとの関わりは、上野動物園長に着任した時からで、十数年というところだ。こんな短い付き合いのなかで、他の動物に比べると奇妙だな、と思わされることが多い。最たるものは、食べ方である。

 タケを食べるが、直線状に並んだ指だけではつかめない。親指と小指の近いところにそれぞれ突起があって、それらと指をペンチのように使ってタケを持つ。まさにタケを食べるために進化してきたような仕組みと言える。動物は食べている時が無防備であるため、特に草食動物は警戒心を緩めない。一方、パンダは、あの独特の坐り方で、どっしりと食事を楽しむかのように食べる。こうした態度、姿、しぐさ、丸い顔、目のまわりの黒隈、黒白模様、そうしたものが入り混じって、人の子どもを彷彿とさせる印象になり、カワイイと叫ばれる対象となった。こうしたパンダの特徴は、長い時間をかけた進化の産物なのだ。

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