本書に登場する女性は長命だった人が多い。

「父を描くためには、肉親としての『近い目』と、一歩引いた距離から父を見つめる『遠い目』が必要です。『遠い目』は年齢を重ねることで獲得できる面がある。長く書き続けることで、父の見方が変化することもありますね」

 水俣病患者を描いた『苦海浄土』の石牟礼道子は、若い頃は家父長制を批判していたが、晩年には父の深い孤独に目を向けた。また、作家の田辺聖子は少女時代の日記で、父を辛辣に批判したが、後年には戦争で多くを失った父を哀惜している。

「その時代ゆえに、そう生きるしかなかったということに気づくと、父の気持ちが分かるようになるんですね」

 梯さんの父は陸軍少年飛行兵学校を経て、戦後に自衛官となった。

「40代になって初めて書いた『散るぞ悲しき』で軍人をテーマにしたのは、父を知りたいという思いがあったからかもしれません。当時のことを調べるうちに、その時代に父が置かれた立場が理解できるようになった」

 他に、萩原朔太郎を父に持つ作家・萩原葉子、詩人の茨木のり子、ノンフィクション作家の辺見じゅんが登場する。

「父が亡くなっても関係は終わらない。むしろ、そこから父と出会う旅が始まるのだと思います」

(南陀楼綾繁)

週刊朝日  2022年12月23日号