文芸評論家・斎藤美奈子さんが本に書かれた印象的な言葉をもとに書評する「今週の名言奇言」。今回は、『フェミニズムってなんですか?』(清水晶子、文春新書 1078円・税込み)を取り上げる。

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■まったく誰にも依存せずに自立している人はいません(清水晶子『フェミニズムってなんですか?』)

 小難しい理論の時代(1990年代)があったり、保守論壇の激しい攻撃にあって不毛な闘いを強いられる時代(2000年代)があったりしつつ、最近また盛り返してきたフェミニズム。清水晶子『フェミニズムってなんですか?』はそんな現在を反映した入門書である。著者はまず三つの基本をあげる。

 第一に<改革の対象は社会/文化/制度であると認識すること>。父親に「家事を手伝え」といわれてムカつくだけじゃダメ。息子には勉強を、娘には家事を求める文化はおかしい、と考えるのがフェミニズム。

 第二に<あえて空気を読もうとせずに、おかしいことをおかしいと思う(言う)こと>。違和感や憤りを捨てないで。

 第三に<フェミニズムはあらゆる女性たちのものであると認めること>。立場は人によってさまざまだ。その違いを尊重することからはじめよう。

 といった基礎もさることながら、本書の特徴はタイムリーな話題を盛り込んでいる点だ。

 たとえばコロナ禍で「エッセンシャル・ワーク」と呼ばれ、重要性が再認識されるようになったケア労働。家事、育児や介護などのケア労働はもともと女性が無償で担ってきた労働だった。ゆえに今日でも低賃金のまま。ファミリーマートの「お母さん食堂」に高校生が異論を唱えた活動も真っ当だ、と。

 こんな調子で、女性リーダー、性暴力、夫婦別姓、同性婚などなどの今日的なテーマが次々俎上にのせられる。かつてしきりに唱えられた「女性の自立」も再認識を迫られる。<まったく誰にも依存せずに自立している人はいません>。必要なのはむしろ<「自立」しなくても生きていける社会を考えること、ではないでしょうか>。

 今日のフェミニズムのトレンドは多様性である。高齢者や障害者も含めて考えれば、自ずと右のような結論に至る。掘り下げ不足の章もあるけど、今の課題のメニューを知るには最適。問題提起が重要ですからね。

週刊朝日  2022年11月25日号