主宰する演劇ユニット「プロペラ犬」で、6年ぶりに作・演出・出演を務める俳優・水野美紀さん。舞台「僕だけが正常な世界」ではコロナ禍で実感した、想像力の大切さ。自分なりのメッセージを込めつつ、笑ってもらえる舞台を目指す。
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「僕だけが正常な世界」は、池袋にある東京芸術劇場「シアターウエスト」で上演される。裏切られて傷ついた青年が、犯罪者へと突き進むなか、一人の役者が、隣にある劇場「シアターイースト」と間違って舞台に紛れ込んでしまい、「シアターウエスト」の世界を狂わせていくというストーリー。テーマは“コミュニケーション”だ。
「世の中には、コミュニケーションが得意な人と、自分は得意じゃないと思っている人がいますよね。私は、コミュニケーションって難しいなと常々思っているほうですが、コミュニケーション巧者からすると、『何をそんなに難しく考えているかわからない』と言われてしまったりする。でも結局、同じ時間に同じ場所で、同じ経験を共有したとしても、人によって見たことや感じたことは違うし、その場で起きたことの何を拾って、何を記憶に残しているかは、そこにいた人の数だけ変わってくると思うんです。でも、『同じ場所にいたから同じこと思ってるでしょ』って完結できる人は、コミュニケーションに強かったりする。そういう感性の違いから起きるソフトな断絶を物語にできないかなって」
昔から、心理学の本を読むのが好きだった。俳優として役を演じながら、台本にない役の心情──。「どうしてここでこういうセリフを言うんだろう?」だとか、「この行動を選択するに至るには、どういう気持ちの変化があったんだろう」という行間の部分は、すべて自分の想像で埋めていった。
「そうするうちに、人が何かを選択したり行動したりするときの動機を考える癖がついたのかもしれないです。日常生活でも、理解できないような行動をとる人がいたりすると、その人を避けるのではなくて、理解したいなと思うんです。人間の、少し変わった部分に興味を持つのは、職業病かもしれません(笑)」