黒田東彦総裁
黒田東彦総裁

 どんどん進む円安・ドル高が、日本経済を脅かしている。米モルガン銀行在日代表兼東京支店長時代に「伝説のディーラー」と呼ばれた経済評論家の藤巻健史さんは、今後、1ドル=500円を超え、日本円の価値は暴落しかねないと警鐘を鳴らす。

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 10月20日の外国為替市場ではドル・円相場が一時、1ドル=150円の節目を32年ぶりに超えた。政府・日銀は9月22日に24年ぶりに円買い・ドル売り介入に踏み切り、その後も何度か介入がうわさされるものの、円安の勢いに衰えは見えない。

 藤巻健史さんは、現在の円安について「この20年来たまってきた日本経済の膿(うみ)が噴き出したものだ」と分析する。

「もともと、日本は断トツの累積赤字国です。本来は2013~14年ごろには財政が破綻してもおかしくはないほどでした。ところが、日銀は13年に究極の危機先送り策である異次元緩和を実施しました。異次元緩和は『デフレ脱却』を旗印に掲げていますが、実態は、オーソドックスな金融論では本来禁じ手であるはずの『財政ファイナンス』と呼ぶべきものです。日銀が大量の紙幣を刷りまくり、政府が発行する国債を買い取ることで財政を支えている。紙幣を大量に刷れば、通貨の価値が希薄化するのは当然です」

「円の希薄化」は異次元緩和がもたらした当然の結果だという。藤巻さんは、円安という形で今、表面化している現象は「日米金利差の拡大」がきっかけと指摘。そのうえで今後、日米当局の金融政策の違いが、円安に拍車をかけるとにらむ。

「米連邦準備制度理事会(FRB)はインフレを抑えるために金利を引き上げるだけでなく、今後は量的緩和をやめ、市場に供給した通貨を回収する姿勢を強めてくると予想されます。これに対し、日銀は利上げをする気配もないどころか、通貨を大量供給する姿勢を変えていません。

 今、マーケットは日米金利差にしか注目していませんが、お金を回収して希少価値が増すドルと、未来永劫、ばらまかれ続けて価値が希薄化していく円との違いが、ドル・円相場に影響をおよぼす度合いは、金利差どころではないと思っています」

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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