司馬遼太郎さんは、来年2023(令和5)年に「生誕100年」を迎える。司馬遼太郎記念財団では生誕100年「好きな司馬作品」アンケートを実施中だ。司馬さんの義弟で財団の上村洋行理事長に司馬作品の先見性、魅力を聞いた。

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 そもそも司馬さんは誕生日にまるで関心のない人だった。上村洋行さんも苦笑する。

「そうですね。家で誕生日を祝ったこともないし、姉の福田みどりもそうでした。司馬遼太郎はだいたい自己顕示の少ない人ですから、財団発信で生誕100年のイベントを大々的にする考えはありませんでした」

 ただ、毎年「菜の花忌シンポジウム」は開催され、来年は、記念館の地元の東大阪市で開催されることが決まっている。「シンポで、今後読み継がれる作品とは何かという話題になるのは自然だと思います。ウクライナ侵攻の今年、『ロシアについて』がよく読まれました。現代に通じるメッセージを持つ司馬作品は多い。未来にどんなメッセージを引き継いでいくか話し合うとき、皆さんに応募してもらうアンケートもご参考になると思いますね」

 ところで、好きな作品1作だけを選ぶのはなかなか難しい。洋行さん自身はどうか。

「やはり若いころ、『燃えよ剣』『新選組血風録』にはワクワクしました。鞍馬天狗の時代に悪役だった土方歳三が、組織の要の人物として生まれ変わる。若手の歴史作家の座談会で、『きのう出版されたような新鮮さがある』といった発言もあり、うれしかったです」

 同時期に連載した『竜馬がゆく』ももちろん負けていない。

「本人が注目したのは坂本龍馬が残した手紙の魅力でしょう。当時の候文を大胆に崩した闊達(かったつ)な文章を読み、感情表現の自由さに驚いた。この青年は何者なんだと思ったと、司馬遼太郎は言っています。一時期、竜馬が自分の親友であるという思いまであったようで、竜馬と土方を読むと、おぼろげに幕末の雰囲気が伝わってくる気がします」

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生誕100年「好きな司馬作品」アンケート