ライター・永江朗さんの「ベスト・レコメンド」。今回は、『朝日新聞記者がMITのMBAで仕上げた戦略的ビジネス文章術』(野上英文、BOW BOOKS 2310円・税込み)を取り上げる。

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 文章を書いてお金をいただくようになって40年にもなるのに、いまだに満足いく文章が書けない。ほら、いま書いたこの文だって、「に」が多いなとか、「文章が書けない」か「文章を書けない」か迷うとか、ぜんぜんダメじゃん。

 というわけで、文章術の本をよく読む。はっきりいって玉石混淆。ハズレも多い。

 最近のアタリは野上英文『朝日新聞記者がMITのMBAで仕上げた戦略的ビジネス文章術』だ。長すぎるタイトルなんだが、実践的で役に立つ。

「書くこととは、書き直すこと」とか「誰でも間違える前提で二度チェック」とか、キャッチーで印象的な見出しが並ぶ。

 ぼくがいいなと思ったのは「仮見出し・二段論法」と名づける著者のノウハウだ。文章を書くとき、まず自分で仮の見出しをつけなさい。先に見出しを考えることで、訴えることと書くべきことの焦点が定まる。そして結論を要約したリード文から本文を書きはじめる。リード文は二段構えにする。

 ちなみにこの欄の見出しは編集部のMさん(元朝日新聞記者)につけてもらっている。ぼくは編集者のころから見出しやタイトルをつけるのが苦手で(だから文章が下手なのか)。

 ぼくら文筆業者に限らず、ネットやSNSの普及で文章を書く機会が増えた。だが、言葉づかいや構成など文章が稚拙であるために、ちゃんと評価されない人が少なくない。平たくいうと、文章がバカっぽいとその人自身がバカっぽく見えてしまう。文章で人格まで判断されかねないデジタル時代、「文は人なり」は残酷な真理だ。サバイバル道具として、お気に入りの文章術本をお手もとにどうぞ。

週刊朝日  2022年9月23・30日合併号