荻上直子(おぎがみ・なおこ)/ 1972年、千葉県生まれ。94年に渡米し、南カリフォルニア大学大学院映画学科で映画制作を学ぶ。2004年、「バーバー吉野」でベルリン国際映画祭児童映画部門特別賞受賞。監督作品に「かもめ食堂」(06年)、「めがね」(07年)、「トイレット」(10年)、「レンタネコ」(12年)、「彼らが本気で編むときは、」(17年)など。テレビ東京の「珈琲いかがでしょう」の脚本、監督も務める。(撮影/写真映像部・東川哲也)
荻上直子(おぎがみ・なおこ)/ 1972年、千葉県生まれ。94年に渡米し、南カリフォルニア大学大学院映画学科で映画制作を学ぶ。2004年、「バーバー吉野」でベルリン国際映画祭児童映画部門特別賞受賞。監督作品に「かもめ食堂」(06年)、「めがね」(07年)、「トイレット」(10年)、「レンタネコ」(12年)、「彼らが本気で編むときは、」(17年)など。テレビ東京の「珈琲いかがでしょう」の脚本、監督も務める。(撮影/写真映像部・東川哲也)

 人とのつながりが希薄な現代に、どう幸せを感じることができるのか。そんな根源的な問いに答えをくれる映画が誕生した。「かもめ食堂」の荻上直子監督が描いた、生きる楽しさとは?

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 映画を作っているときは、“生きている実感”を得られる分、映画が作れないと、苦しくてしょうがない。「川っぺりムコリッタ」も、脚本を書いてから映画になるまで3年かかっているため、「なんかつらくてしょうがないから」という理由で、半年かけて脚本を小説にした。

「日々、“どうしたら映画が作れるんだろう?”っていうことしか考えていないですね。でも、映画が作れるようになったからといって、30歳のときに感じた、“生きることにうんざりする感じ”が解消されたわけじゃないです。それは、映画作りとはまた別の、日常の感覚なんです」

 監督独特の死生観──。監督は、「自然災害の多い国に生まれて、私たちは、いつ死んでもおかしくないギリギリのところで生きている。あちら側とこちら側の境目は、実はそれほどはっきりと決められた線ではなくて、もっと曖昧な時間」と考えた。その生と死の間にある時間を、ムコリッタという仏教の時間の単位に当てはめてみたのがこの映画だ。アパートの住人はみんな、大切な人の死に直面している。主人公の山田は、落ちこぼれだけど人間らしい住人に囲まれて、友達でも家族でもない彼らの中で、“孤独ではない”と実感する。映画が描く、“ささやかなシアワセ”の最たるものが、白いご飯だ。ギリギリ生きている人が、丁寧にお米を研いで、命をかけるような真摯さでご飯を炊く。ご飯と味噌汁と、塩辛工場の社長にもらった塩辛。そのおいしさを噛み締める。

「私は、映画の中では、淡々と生きる人たちの日常を描きたい。日常生活の中で、とくに重要なのが食事の時間だと思うんです。だからといって、ことさら意識して食べ物をおいしそうに見せたいとかではなく、本当に、食事シーンは、つい出てきてしまうっていう感じなんですけど……」

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