『一言坂の戦い』(岡部英一 静岡新聞社)
『一言坂の戦い』(岡部英一 静岡新聞社)

【静岡】戦いから今年で450年。後世に伝える執筆5年半の労作
『一言坂の戦い』(岡部英一 静岡新聞社)1980円

吉見書店竜南店(静岡市) 柳下博幸さん

 織田信長・徳川家康連合軍が武田信玄に完膚なきまでに叩きのめされた「三方ケ原の戦い」。その一戦のなかで唯一武田軍に勝利したのが「一言坂の戦い」です。

 本多平八郎忠勝が奮闘した戦いとして知られるが、資料はほとんど遺されておらず、地元在住の著者が古くからの伝承と限られた資料から導き出した労作。織田信長が今川義元を打ち破った「桶狭間の戦い」から「武田信玄の死」に至るまでの家康と信玄の12年間に及ぶ戦いを時系列で読み解き、いかにして「三方ケ原の戦い」に至ったのかを描く、地元の埋もれた歴史に新たな光を当てた一冊です。

【愛知】創業377年。老舗社長が語る 元祖・八丁味噌のルーツとこだわり
『カクキュー八丁味噌の今昔~味一筋に十九代~』(早川久右衛門 中部経済新聞社)880円

正文館書店(岡崎市) 春井宏之社長

 戦国時代。今川義元の家臣であった先祖・早川新六郎勝久が桶狭間で敗れ、岡崎へ逃げ延びた。住み着いた地で始めたのが味噌造り。

 長い歴史の中で天皇家や近代作家など多くの人に愛される味となり、伝統的な味噌造りを守ろうと、今もなお木桶を使用した醸造を続けている。

「八丁味噌」という名称はブランドであり、特に製法において、合理的とか経済的などと形容される手抜きは許されない。

 今こそ、この文化的な意味合いを掘り起こし、本物を知らなければならない。

【三重】浅井長政、豊臣秀吉、徳川家康…戦国時代を生き抜いた主従関係に学ぶ
『蔦は枯れず 主替え──転職名人 藤堂高虎の生涯』(摂津守 岡森書店)2800円

岡森書店白鳳店(伊賀市) 岡森史枝店長

 戦国時代、築城の名手といわれた武将・藤堂高虎。日本で一番多く城を造り、晩年の徳川家康に最も信頼・評価された人物であったにもかかわらず、登場する歴史小説は多くはない。

 ならば自分が、と書き上げた著者渾身の自費出版本である。主君を7人も代えた「ごますり男」などではなく、勤勉で義理人情に大変厚く、また茶道・能・俳諧にも通じた文化人としても一流のスーパー武士であった高虎公。伊勢・伊賀国の藩主として城下町の礎を築いた郷土のヒーローが、いつか大河ドラマの主人公にと願っての、推しである。

(高鍬真之)

週刊朝日  2022年9月16日号より抜粋