訪台後に来日したペロシ米下院議長と岸田文雄首相
訪台後に来日したペロシ米下院議長と岸田文雄首相

 残念ながら、「曖昧戦略」で中国を抑止できた時代は終わりつつあると思います。いま米国内では、中国の軍事的優位は明らかで、台湾有事の際に米側の行動が「曖昧なまま」では、中国を抑止できない、という議論が始まっています。バイデン氏が台湾防衛を「コミットメント(約束)」するとした発言や、ペロシ氏の訪台強行も、こうした「曖昧戦略の見直し」議論の一環と見るべきです。

 もちろん、有力な反対意見もあります。「明確戦略」を採れば、中国は台湾への軍事的・非軍事的圧力を強めるだけで逆効果だというのです。バイデン政権の最近の対応も、決して褒められたものではありません。台湾をめぐる米行政府と立法府間の政策論争は、当分続くでしょう。

 台湾にとって、ロシアによるウクライナ侵攻から得た教訓は少なくありません。筆者が指摘したいのは次の5点です。

(1)軍事力なしに国は守れない

(2)情報戦で勝たなければ戦争には勝てない

(3)同盟がなければ国は守れない

(4)自ら血を流さなければ同盟国は助けに来ない

 そして最も重要なのが、

(5)専門家の予測は当たらない、ということです。

 ロシアのプーチン大統領も「人の子」であり、人は往々にして「判断ミス」をします。彼のウクライナに関する判断ミスは、戦略的かつ致命的でした。仮に彼が生き延びたとしても、この戦争はロシア国民にとって大きな災いとなるでしょう。

 それと同じことが中国で起きないという保証はありません。

 中国の外交は5年に1度の共産党大会に振り回されてきました。3期目を目指す習氏にとって、この夏は正念場です。そんな時期にペロシ氏が訪台しました。前々回の2012年には尖閣諸島の「国有化」問題を巡って対日関係が極度に悪化したのは記憶に新しいところです。その時と同様、習氏にとって安易な妥協はできません。

 習氏がプーチン氏の轍(てつ)を踏むかはわかりません。ただ、私たちは「独裁者による判断ミスは矯正が難しい」という教訓も学ぶべきです。

 そして今回、筆者が最も懸念するのは、独裁者個人の判断ミスではなく、国家・民族が組織的に「戦略的判断ミス」を繰り返す恐れです。

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