流れが変わったのは5月19日の衆院憲法審査会。公明党の北側一雄副代表が「個人的見解」として、自衛隊法で規定された自衛隊に対する首相の指揮監督権を憲法72条などに加える案を示したのだ。憲法72条には「首相は行政各部を指揮監督する」と定められており、この指揮監督対象に自衛隊も加えることを検討すべきだという。9条を改正して自衛隊の存在を明記するという従来の自民党案からすると“離れ業”にも見えるこのアプローチ。公明党関係者が言う。

「北側氏の発言は単なる観測気球に見えるだろうが、実は支持母体の創価学会幹部や複数の憲法学者が参加して練りあげ、すでに党としてコンセンサスを得た虎の子の案と聞いている。9条を改正しようと言うなら賛成できないが、このかたちなら公明もギリギリ乗れるということです」

 公明党の「72条加憲」案に対し、自民党保守派や日本維新の会は反発を強めたが、自民党のベテラン議員などからは「9条改正に関しては国論を二分しかねない。自衛隊がしっかり現行憲法に明記されるならば譲歩する余地はある」との声も出ているという。秋の臨時国会から与野党で議論されていくと思われる。

 ある自民党国対幹部は、

「改憲は他の法案に比べ途方もないエネルギーを要する。発議までには少なくとも3回の国会をまたぐほどの労力がかかるだろう」

 と語る。この見立てが正しければ、発議は2024年の通常国会となる。

葬儀が行われた増上寺(東京都港区)を出る安倍氏の棺を載せた車
葬儀が行われた増上寺(東京都港区)を出る安倍氏の棺を載せた車


「安倍ロス」のショックの中、なし崩し的に物事が進まないよう、国民は注視する必要がありそうだ。(本誌・村上新太郎)

週刊朝日  2022年7月29日号