岸田文雄首相(左)と安倍晋三元首相
岸田文雄首相(左)と安倍晋三元首相

 参院選に「圧勝」したものの、安倍晋三元首相の急逝という激震に揺れる自民党。奇しくも政策の「フリーハンド」を得た岸田文雄首相が目論むのは、防衛費増額に伴う増税か、はたまた安倍氏の悲願だった憲法改正か──。

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「この秋に、国葬儀(こくそうぎ)の形式で、安倍元総理の葬儀を行うことと致します」

 7月14日に行われた記者会見の冒頭、岸田文雄首相は安倍晋三元首相の功績を列挙したうえで、こう宣言した。国葬が行われるのは、1967年の吉田茂元首相以来。政策面では時に意見を違えることもあった安倍氏に対し、岸田氏は最大限の敬意を示したかたちだ。

 岸田政権を支える麻生太郎・自民党副総裁も、12日の葬儀で読んだ弔辞の中で「国際社会での日本の存在を高めた、戦後、最も優れた政治家だ」と、“盟友”安倍氏を讃(たた)えた。

 安倍氏と共に政権を運営してきた政治家として、二人の態度が真心から出たものであることは疑う余地がない。一方で政治のリアリズムを見つめると、「安倍氏の死去」という予期せぬ事態は、今後、岸田政権の針路に大きな影響を与えそうだ。麻生氏に近い衆議院議員が語る。

「岸田氏と麻生氏の政権運営にとって最大の脅威が、最大派閥の長として強い発言力を持つ安倍氏だった。参院選に勝利した岸田政権にとって、『脱安倍』こそが次に取り組む課題になると思っていた。こればかりは数奇な運命としか言いようがないが、岸田政権は安倍氏の突然の不在によって、政策の『フリーハンド』を得たことになる」

 安倍氏は、岸田政権が策定する「骨太の方針」をめぐり、防衛費を対GDP比2%以上とすると明記することや、財政健全化目標の達成期限を削除することなどを強く要求し、一部を実現してきた。こうした「軍備拡張派」や「積極財政派」の意向が、今後は通りづらくなる可能性がある。

 では、「フリーハンド」を得た岸田政権が国政選挙のない「黄金の3年間」で目指すものは何なのか。浮かび上がってくるのは「増税」と「改憲」という二つのテーマだ。

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