「香港」で撮り続けるというチャン・ジーウン監督=撮影・高橋奈緒(写真映像部)
「香港」で撮り続けるというチャン・ジーウン監督=撮影・高橋奈緒(写真映像部)

 この夏、香港の“いま”を伝える話題のドキュメンタリー映画が2本公開される。一国二制度が踏みにじられ、恐るべき速さで自由を失ってきた香港社会で、人々はどのように抵抗してきたか。一度失ったら簡単には取り戻せない「自由」を求めた人々の闘いは、決して他人事ではない。

「Blue Island 憂鬱之島」は2014年の雨傘運動を描いた「乱世備忘 僕らの雨傘運動」を撮ったチャン・ジーウン監督(35)の2作目のドキュメンタリーだ。

 文化大革命の最中、命をかけて深センから海を泳いで香港へ向かうカップル、理想の香港をつくろうと暴動に身を投じた者、学生の自由の要求を支持し天安門広場へ向かったものの、戦車と銃弾によって人が殺される光景を見てしまった者……。

 歴史的な三つの大きな事件、「文化大革命(1966~76年)」「六七暴動(67年)」「天安門事件(89年)」を体験した3人の若者たちの姿を通して、いずれの時代も自由を守るために闘ってきた香港人の姿を浮き彫りにする。それら過去の事件をドラマ仕立てにして、ドキュメンタリー映画に挟み込むという手法で描いた。

 チャン監督は言う。

「ドキュメンタリーにドラマの要素を取り入れることによって、どういう効果が表れるか試したかった。人間の記憶とはどんなものなのか、自らの記憶との向き合い方を探求したいと思いました」

 監督はこれまでも、客観的な歴史と個人の記憶との間の曖昧な境界線や、食い違いが物語にどう影響を与えるのかということに興味を惹かれてきた。今回もまた、あえてその境界を越え、視点を混在させることで違った形で普遍的な感覚を捉えようとしたという。

 ドラマの出演者はプロの俳優ではなく、みな19年の香港大規模デモの参加者だ。ただし、それぞれの立ち位置はさまざま。例えば、55年前の「六七暴動(香港イギリス政府に対する抵抗を目的とした大型暴動)」で刑務所に入れられた親中派の男を演じた若者は活動家。自身も収監されたことがあるが、政治スタンスは「(香港人であって)中国人ではない」。

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