鋭い歯で仕留めたパラグアイカイマンをくわえ、川岸へと泳ぐジャガー(写真:岩合光昭)
鋭い歯で仕留めたパラグアイカイマンをくわえ、川岸へと泳ぐジャガー(写真:岩合光昭)

 1986年に日本人写真家として初めて米「ナショナル ジオグラフィック」誌の表紙を飾ったとき、同誌の編集者から最も興奮する場所として「パンタナール」の名を聞き、いつか訪れたいと思っていたという岩合光昭さん。2015年から足掛け3年半、5回にわたって現地を訪れ、ジャガーをはじめとする多種多様な野生動物たちの生態を追った写真が、いま公開されている。

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「パンタナールを訪れた大きな目的は、ジャガーでした。歩いているとか座っているとか、ただその姿が写っていればいいというのではなく、やはり狩り、ハンティングを撮りたいと思っていました」

 南米大陸に広がる大湿原パンタナールで、ジャガーの狩りの貴重な一瞬をとらえた、動物写真家の岩合光昭さん。その地名を知った1986年からずっと訪れたいと思っていたが、当時ジャガーは見ることさえ難しかったのだという。

「一帯は国立公園ではなく、個人の牧場なので、牧場主が家畜を守るためにジャガーを見るとすぐに殺していたんだそうです。それが、2010年代に入って、大物釣りを楽しむ観光客がこの地域にやってきたことで、ジャガーが目撃されるようになり、SNSで広まったんです。その頃ちょうど縦貫自動車道も開通してぐっと訪れやすくなり、これは行かなくては、と思いました」

 だが、狩りをする姿を写真にとらえるのは、容易ではなかった。

「ジャガーの姿が見えた途端、多くの観光船がその進行方向に集まってしまうので、狩りができないんです。僕らのガイドは、ジャガーの邪魔をしないよう絶えず後ろから追っていたこともあり、なかなかチャンスに恵まれませんでした。が、お昼時になると、観光客を乗せたボートはみな、引きあげていった。僕らは朝6時から夕方6時までずっと川の上にいる覚悟で弁当を持参していたので、その場に残ったんです。僕らもランチにしようと、アンカーを打って、ボートに日除けをかけた直後、バシャンと大きな水音がしました。

 パッと見たらジャガーが、高さ5メートルほどの崖から飛び降りたところだった。パラグアイカイマンに飛びかかって首をひと噛み、一瞬で仕留めたんです。でも、食べるためには崖上まで運ばなくてはならない。自分の身の丈より大きなカイマンを顎の力だけで川から引き上げるのですが、かなり時間がかかって。僕は途中で諦めるのではと思ったくらいでしたが、彼はあきらめずに、30分ほどかけて最後までやりとげましたね」

 東京都写真美術館で開催中の写真展では、崖上に引き上げる場面までのほか、ジャガー以外にも多くの動物たちのめずらしい姿を見ることができる。

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