五木寛之さん(左)と林真理子さん(撮影:写真映像部・松永卓也 編集協力:一木俊雄)
五木寛之さん(左)と林真理子さん(撮影:写真映像部・松永卓也 編集協力:一木俊雄)

 ロシアによるウクライナ侵攻が続いています。作家・五木寛之さんは、戦争をどうとらえているのでしょうか。作家・林真理子さんとの対談で語ってくれました。

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林:先生は、このごろ積極的にいろんなメディアにお出になってるような気がします。

五木:10年おきぐらいにメディアが寄ってくるんですよ。いまちょっと波の上に乗せられているという感じでね。コロナだとかウクライナ戦争だとか、難しいことがいっぱいあるから、年食った人間の意見を聞きたいのかもしれない。あと何カ月かで90(歳)ですから。

林:信じられないです。先生は最近、「年をとってくるのが楽しみで、好奇心がどんどん増えてくる」とおっしゃっていますよね。

五木:それはほんとにそうです。僕は4年前に『マサカの時代』という変なタイトルの本を出したんですけど、この数年間、ウクライナの問題にしても、毎日「まさか」の連続ですよね。日々ハラハラドキドキしながら暮らしているという状態で、僕は毎朝新聞を6紙、一生懸命読んでるもの。

林:ウクライナから逃れてきた人たちを見ると、ご自分の体験と重ね合わせて正視できないんじゃないですか。

五木:うーん。ちょっとちがうかな。ウクライナの人たちは「難民」、僕たちは「棄民」ですから。よく「デラシネの世紀」とか言ってるんですけど、「デラシネ」って「流れ者」という意味じゃなくて、力ずくで自分の故郷から引き離された人たちのことをいうんです。

林:私、「デラシネ」という言葉を先生の『デラシネの旗』(1969年)という本で知りました。確か中学生の頃です。それも意味がまったくわからず、何だろうと思ってずっと考えたことがあります。

五木:ウクライナもスターリンの時代にさかのぼって、クリミア・タタール人たちがシベリアに強制的に集団移住させられたり、あそこは何度もそういう体験をしてきてるんです。シリアの難民だってそう。難民、棄民、移民と三つあるんです。

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