週刊朝日 2022年6月10日号より
週刊朝日 2022年6月10日号より

「認知症の範囲には入っていませんが、テストの結果は決してよくありません。75歳以上でももっと高い点数を取れる方もいます。念のため後日、MRI検査を受けましょう」

 この段階では認知症との診断ではないが、あえていえば軽度認知障害(MCI)ではないかと。

 図形模写が悪かった。同じ図形を隣に描くというテストだが、同じように描いたつもりが、線が1本入っていなかった。空間認識障害らしい。私は昔から地図が読めない。方向感覚も悪い。もとから持っている性質(空間認識に関わる学習障害)と信じたいが、脳に何らかの障害が起きていたらと急に不安になった。

 半年前に人間ドックで脳の検査を受け、「異常なし」だったのに。まだ53歳。若年性認知症という言葉が重くのしかかってきた。

 18~64歳に発症した認知症疾患を「若年性認知症」といい、全国に約3万6千人いると見られている(日本医療研究開発機構認知症研究開発事業の2017~19年度実施調査)。18~64歳の10万人あたり約51人の割合だ。

 働き世代であることから、経済的な負担の大きさが問題になる。しかも老年期の認知症より進行が速いと言われている。初期症状が診断しにくく、受診が遅れることも指摘されている。

 子どもの教育資金の問題などから症状を隠して働き続ける人もいる。しかしいずれは退職を強いられる。そんなときに次のステップを踏めるか否かは、早期の段階から疾患を受け入れ、自分らしく生きる設計図を描けるかどうかにかかっている。

 国が15年に策定した「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」では、都道府県ごとに、若年性認知症の人やその家族からの相談窓口を設置し、若年性認知症の自立支援を促す支援コーディネーターを配置すると定めている。

 若年性認知症者や高次脳機能障害者を支援する「いきいき福祉ネットワークセンター」(東京都目黒区)の駒井由起子理事長がこう話す。

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