※週刊朝日2022年5月27日号より
※週刊朝日2022年5月27日号より

「勝ち負けではないです。相撲部を出たからといって何の得にもなりません。でも、ここで経験して得られるものはとても大きいのは間違いありません」

 現在、シカゴ大学地球物理学科教授である中村昇さんは、東大相撲部に4年間いたスタミナがあるならば大丈夫だと、ノーベル物理学賞を受けた真鍋淑郎博士から学生時代に太鼓判を押され、プリンストン大学大学院進学の推薦をしてもらったそうだ。東大らしいと感じることは、どんなところか。

「ここ一番の集中力はみんな持っています。やると決めたら必ず実行しますね。それはいつの時代も変わらないです」

 人それぞれやり方は違うが、有言実行タイプが多いとのことだ。

 白石さんは東大相撲部での経験を生かし、ボランティアで練馬石泉相撲クラブという町道場を主宰し、毎週日曜日に相撲を通じて子どもたちの健全育成に努めている。この五月場所では新十両となった栃丸関(春日野部屋)をはじめ3人を角界に送り出した。そうした経験もあり、東大相撲部の後輩・須山さんのことも気にかけているという。

「須山君が大相撲の世界に入るので、入門の前に、私と相撲部OB会会長、副会長ら役員と相撲部長、相撲部監督だけでささやかな壮行会を行いました。その場に国公立大出身の力士第1号で元高砂部屋マネージャーの松田哲博氏を特別来賓としてお招きしました」

 松田さんは自分をしっかり持つことが大切とのメッセージを送った。

 白石さんによると、須山さんは、卓越した集中力、やると決めたら簡単には逃げ出さない忍耐強さがあり、素直さと前向きに努力する姿勢も自然に身についていると話す。

「ぜひとも弱々しい“東大出のタレント的力士”にならないように、本物の力士になってくださいと声をかけました。そうしたら力強く『はい』という返事が返ってきました。大いに期待しています」

 須山さんの角界入りは東大相撲部にとって特殊事例だろう。でも、彼に憧れて、東大出身の力士が今後も誕生するかもしれない。(本誌・鮎川哲也)

週刊朝日  2022年5月27日号