小笠原文雄(日本在宅ホスピス協会会長、小笠原内科・岐阜在宅ケアクリニック院長)
小笠原文雄(日本在宅ホスピス協会会長、小笠原内科・岐阜在宅ケアクリニック院長)

 在宅死を支える医師や看護師は、なぜその道を歩んでいるのか。職業観を掘り下げると、在宅死の本質的なメリットが浮かび上がってきた。病院にはない死のあり方について、看取りを支える5人に聞いた。

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◆生まれるところは決められないが死ぬところは自分で決められる

小笠原文雄(日本在宅ホスピス協会会長、小笠原内科・岐阜在宅ケアクリニック院長)

 在宅医療に携わり33年。これまで1500人を超える患者を在宅で看取ってきた。「在宅なんてやりたくない」から一転、半径500メートル以内の往診から始まった氏の在宅看取りは、全国へと広がっている。

 私の信条は、どんな患者でも、最期まで自宅で朗らかに暮らし、満足して旅立てるようにケアすること。在宅医療は、病院ではできない方法で命のケアができると思っています。

 私は僧侶の息子で、9歳で得度し、法事や葬式にも伺ってきました。祖父は網走刑務所の教誨師。そんな環境もあって、幼いころから死というものについて、人並み以上に考える環境で育ってきたと思います。

 医者の道を志し、医学部を卒業してから16年半にわたって勤務医をしていたころは、在宅医療なんて全く考えていませんでした。それどころか、在宅医療はやりたくない、医学の進歩に寄与できない開業医は敗北だと思っていたんです。だから目を悪くし、勤務医を続けることが難しくなって開業医の道を選ばざるを得なかったときには、挫折感がありました。

 1989年、小笠原内科を開業。開業前は往診しないつもりでしたが、妻から「断ると患者さんが可哀想だから」と言われて、開業当初から在宅医療と訪問看護を始めることに。患者の家に往診に行っても、最初は何をするのかもわからず、看護師にいろいろ教わりました。看護師は、在宅医療の要でキーパーソンだと思い知りました。それから数々の現場で、患者や家族から話を聞き、看取りの経験を重ねてきた中で今の僕があります。

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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