ライター・永江朗氏の「ベスト・レコメンド」。今回は、『やさしくない国ニッポンの政治経済学』(田中世紀、講談社選書メチエ 1100円・税込み)を取り上げる。

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 生活保護について考えると暗い気持ちになる。役所は受給申請者を門前払いし、ネットでは受給者バッシングが止まない。そのため受給せずに餓死したり病死したり自殺したりする人が絶えない。生活保護受給者への批判は、カネがないなら死ねと言っているのと同じだ。

 いつから日本人は困っている人に対して冷酷になったのだろう。弱者や困窮者に冷たいのが、日本人の国民性・民族性なのだろうか。田中世紀『やさしくない国ニッポンの政治経済学』を読みながら考えた。

 著者はオランダのフローニンゲン大学助教授で、専門は政治学・国際関係論。

 残念ながら、日本人がやさしくないということについてはデータがある。イギリスの財団が作成した「世界人助け指数」の総合ランキングで世界126カ国中107位。「人助け」項目では最下位。他の国際調査でも、日本人が他国の人に比べてやさしくないことがあきらかだ。

 なぜなのか。ことの背景はそう単純なものではなさそうだということが、田中の本を読むとわかる。いくつか示唆的なことが書かれている。たとえば、ある研究によると、日本人は他者を信頼しない傾向がある。それは、人と人との関係のあり方を社会制度に頼っていたため、他者を信頼するトレーニングを受けてこなかった結果ではないかというのだ。なにしろ総理大臣が「自己責任だ」とか「まずは自助」なんていう国だもの。

 困った人を助けない社会は生きづらい。自分がいつ困った状態になるか、たえず不安にさらされるからだ。生活保護受給は当然の権利だし、国や自治体には人を守る義務がある。自己責任論なんてぶっ飛ばせ。

週刊朝日  2021年12月31日号