母と同室の寝室(リフォーム後の浅井郁子さん宅)
母と同室の寝室(リフォーム後の浅井郁子さん宅)

 高齢者の転倒事故が起こる場所は、約半数が住み慣れた自宅だという。在宅療養が始まったら、住みやすさに加えて安全面も考慮したい。在宅生活を快適に、安心して過ごすためのリフォームには、どんなポイントが必要なのか。実例をもとに考えてみよう。

【写真】トイレを組み入れた洗面室

「父の介護が終わったら、自宅をリフォームしようという気持ちがモチベーションになっていました」

 こう話すのは、8年前にリフォームした自宅マンションで、91歳の母(要支援1)と2人暮らしをしている浅井郁子さん(61・東京都在住)。介護・福祉分野に詳しいライターでホームヘルパーの資格も持つ浅井さんは、3年間にわたる介護生活の後、2011年に父を亡くした。脳梗塞の後遺症から失語症になり、認知症も抱えて車椅子生活でもあった父の介護は、想像以上にハードなものだった。

 浅井さんは両親と20年以上別居していたが、父の介護のため、同居を決意。両親が60代で終のすみかとして購入し移り住んだ現在のマンションに、12年前に引っ越した。その後の介護生活で浅井さんの支えとなったのが、自宅マンションのリフォーム構想だ。父の車椅子生活により、廊下や壁は傷だらけになっていた。さらに認知症による便漏れなどで、床にこびりついたシミも取れない。最初は汚れた壁と床だけのリフォームを考えたが、見積もりを頼むとそれだけで何百万円と高額な費用がかかる。ちょうどそのころ、水回りの設備も古くなってきていたのと、まとめてリフォームしたほうがコストも抑えられることから、「いっそ手を入れるなら」と思い切ってフルリフォームに踏み切ったのが、父の死から2年経った13年のこと。浅井さんが53歳、母が83歳のときだ。

「リフォームの目的は、母と私が介護状態になっても住める住空間。父の介護を通して、『もっとこうだったらいいのに』と感じていたイメージを具現化しました。高齢の母が快適に暮らせるように、そして私の終のすみかとしても心地よく住める住空間を意識してリフォームしました」

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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