「中国は領有を主張する南シナ海周辺で大々的に演習をやられ、苛立っている。しかも、米国や英国の船は台湾海峡を通過しています。しかし、欧米は遠いので中国が意趣返しする相手は日本しかない。自分の庭先で演習をするなら、こちらも黙っていないというメッセージを出したのです。その中国の後ろ盾となっているのがロシアです」
2019年7月、中ロ空軍の複数の軍用機が、島根県・竹島上空を飛行した。韓国軍はこれを領空侵犯として戦闘機をスクランブルさせ、ロシアの早期警戒管制機に対して計360発の警告射撃をした。日本政府はロシアに抗議するとともに、韓国にも「日本の領土の竹島上空で警告射撃をすることは認められない」と抗議するなど、日韓間も非難の応酬となった。
「このときの中ロの目的は、日本と韓国の軍事態勢がどう反応するかを見ることと、日韓間に楔を打ち込み、日米韓の安全保障上の連携にも影響を与えることでした。訓練には無駄がなく、明確な意図がある。日米欧などによる圧力が続く限り、中ロの艦船が海峡を通過することは今後も起きるでしょう」(半田氏)
日本は、津軽海峡や大隅海峡、宗谷海峡、対馬海峡を「特定海域」に指定。領海の幅を国連海洋法条約に基づく12海里(約22キロ)ではなく、3海里(約5.5キロ)に狭めて設定している。北海道・本州間の最も狭い部分が約20キロしかない津軽海峡も中央部分は公海のため、どこの国の船舶でも自由通航が認められる。
軍事評論家の前田哲男氏が説明する。
「中ロの軍艦が通過しても国際法上の問題は生じないので、海自が常時監視するしかない。しかし、今後こうした演習がくり返されて軍事密度が高まると、一触即発的な状況になりかねません。その危険は常に存在します」
◆敵基地攻撃能力 保有の口実にも
海自と米第7艦隊は一体化して行動しており、海軍力は目下のところ日米が有利だろう。だが、いま圧倒的な軍事力を誇る米国をも震撼させているのが、中ロが先行する最新兵器だ。音速の5倍(マッハ5)以上で飛ぶ極超音速兵器で、「極超音速滑空ミサイル」と「極超音速巡航ミサイル」がある。弾道ミサイルの軌道とは異なり、低高度を変則的な軌道で飛行し、着弾する。現在のミサイル防衛システムでは迎撃困難で、軍事バランスを一変させる「ゲームチェンジャー」になり得る。